第35話 編入試験の結果
試験の監督を務めたカリム・フローは、養成院を束ねる総長、ガリオン・ニトラスに報告書を提出した。
「……本当かね?」
報告書に一通り目を通したガリオンが、顔を上げる。
「本当、と申しますのは?」
「この報告書を読む限り、とてもではないが……規格外という言葉すら生温い」
カリムは黙ってガリオンを見る。
マールからの推薦状を受け、試験を行った。
それだけのはずだった。
しかし、結果は二人の予想を遥かに超えていた。
「戦場模型では、味方をあえて囮に使った」
「はい」
「しかも、その判断に迷いがない。目的は民間人の退避と本隊との合流。味方を全員生存させることが目的ではないと理解していた」
「その通りです」
「七歳児の芸当ではないな」
「同感です」
ガリオンは報告書をめくる。
「魔法は基本となる五属性をすべて使用可能。ただし、制御に難あり……」
「はい」
「そもそも、五属性を使える時点で七歳児としては異常だろう」
「おっしゃる通りです」
さらに一枚。
ガリオンの眉間に皺が寄る。
「挙げ句に獣人を一撃で殴り殺し、自らの腕も粉砕する……」
「はい」
「……なんだ、こいつは?」
「ご尤もな疑問です」
二人は壁際に立つ三人に目を向けた。
それはこれまで護衛としてそばについていたマグナ、ハーレイ、サファンの三人だ。
「君たちの意見は?」
まずはマグナが口を開く。
「発想は柔軟。目的の最大化のための合理的な判断は光るものがある。ただ、常識というものを知りません」
次はハーレイ。
「便利。これが一番の評価です。必要なところに放り込めば勝手に答えを出します。本人に自覚はありませんが、坊っちゃんはそういう子です」
最後にサファン。
「物静か、そして感情を表に出しません。というか、表に出すべきでないと考えている印象ですね。論理的に解決に導く癖があるように思います」
そのサファンの言葉に、カリムが疑問を投げる。
「その割には狼の獣人には、かなりの殺意があるように見えたが?」
「はい。あれは狼の獣人だからでしょう。ウォルカの崩壊は狼の獣人が引き金でした。それを知っていて、狼の獣人を引き合わせたのでは?」
「いや、そういうわけではない。たまたまこの近くに迷い込んできた個体だ。実力を見るのに丁度いいと思って使っただけだ」
そのカリムの様子にハーレイが呆れて言う。
「そりゃないでしょう。ウォルカの報告書はあなたがたも見たはずだ。それを敢えて使うってのは、根性が曲がってませんか?」
「ハーレイ!」
ハーレイの言葉にマグナが反応する。
「口を慎め!総長の前だ!」
四人の話を聞いていたガリオンが大きな溜め息をついて、口を開いた。
「では、君たちはセト・ウォルカをどうするべきだと思う?」
兵科という意味だろうか?
それとも編入を認めるべきという意味だろうか?
「私は、坊っちゃんの編入を認め、魔法士として育てるべきだと考えます」
マグナはガリオンを真っ直ぐ見て言った。
その言葉にカリムは首を振る。
「いや、あれは魔法士ではない。だが、前線にいる戦士でもない。もちろん後方担当などでもない。将とするには不安定だ。そして参謀とするには、思い切りが良すぎて兵がついてこない。もっと上の、俯瞰する目線から戦場を見ている」
カリムの様子を見て、ハーレイが言う。
「だから言ってるじゃないですか。坊っちゃんはね、必要なことをやる。だからどこに放り込んでも大丈夫ですよ。目的の最大化?っていうんですかね?大丈夫だと思いますよ」
カリムはサファンを見た。
「君の意見は?」
「特定の兵科に固定すべきではないのでは?適性というより、その兵科に必要な知識を詰めれば、ある程度の最適解は導くように思います。ただし、それが犠牲を伴わないとは限りませんが」
サファンの意見で、全員の意見は出揃った。
「答えになっとらんな。しかし、それも答えか」
ガリオンはそう言うと腕を組んで考え込んだ。
しばらくあご髭をいじりながら考える。
「編入は認める。というか、野に放つような安全なものではない。むしろ危険物だ。ここで常識をたたき込む。それしかなかろう」
下された決定は、普通の士官課程の1年目からの編入だった。
「まずは読み書きからだ。それができなくては報告どころか伝令もできん」
カリムはもう一点の懸念事項をガリオンに投げた。
「寮ですが、どう致しますか?7歳というのは異例でして……」
この養成院の門を叩く平均年齢は15歳。
成人した後、ここで修行して軍や教会の武官などになる。
セトは七歳、平均年齢の半分以下だ。
「あれは他の学生に影響を与えかねん。他の学生から影響を受けて、才能を潰すのも惜しい。一人部屋にしろ」
こうしてセトの編入は認められた。
七歳。
養成院の歴史の中でも、これほど若い学生は存在しない。
そして彼には、もう一つ異例の待遇が与えられた。
一人部屋である。
それがセトを守るためなのか。
それとも、他の学生を守るためなのか。
その答えは、ガリオンにもわからなかった。




