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生贄の英雄 セト・ウォルカの物語  作者: 下山四郎
Disc01:幼少期─王立魔法士官養成院─
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第34話 戦闘試験



開けられた扉の先は、檻のようなものがある部屋だった。


部屋には太い鉄格子で仕切られた空間がある。

その向こう側にも、もう一つの入口がある。


「ここで最後の試験です」


男は檻の外からセトに説明する。


「あなたはこちら側から入る。相手は向こう側から入ります」

「相手?」

「はい。相手です。ここでは戦闘試験を行います」


セトは檻を見つめた。


戦闘試験。

つまりは組手だろうか。


「戦闘ですか?」

「はい」

「どのような?」

「目的は制圧。手段はお任せします」


男は淡々と答える。


「結果は、あなた次第です」

「……相手は誰ですか?」


その問いに、男は一瞬だけ黙った。


「それは、入ってからのお楽しみです」


男が手を上げる。

すると、檻の向こう側にある扉が開いた。

鎖の音が響く。


何かが、入ってくる。

四本の足。

灰色の毛。

鋭い牙。

そして、人間のように二本の足で立ち上がった。


「……狼?」


セトが呟く。

それは狼の頭部を持つ獣人だった。


男は何でもないことのように告げる。


「では、始めます」


扉が閉じた。

檻の中には、セトと狼の獣人が残された。


「あれは、狼、ですか?」

「ええ、狼の獣人です」


その言葉にセトはウォルカを思い出す。


狼の襲撃によって崩壊した村。

死んだ父、母。

全ては狼の襲撃から始まった。


「人、ではないんですね?」

「人?獣人は獣人です。人の言葉も話せません。人ではありませんよ」


セトの目に暗いものが宿る。


「じゃあ、ただの獣か………」


それだけを呟くと、セトは身体強化をする。

狼の獣人は素早い。

それはゼラムが、目の前で戦っていたから知っている。


同時に必要なのは、動体視力だ。

目に集中して、視界を狭めても、動きを追えるように強化する。


狼の獣人が動く。

檻の中を縦横無尽に駆けて加速していく。


(速い……けど、追える)


目で狼の獣人を追い、跳びかかってくる拳を避ける。

風切音が耳に届き、その拳がかすめた前髪が焦げる。


(速いし、これは……重い)


獣人の動きは見えている。

避けることもできている。


(俺は、父さんほど強くない。身体能力だけなら、こいつのほうが上だ)


パンチ力……

衝撃力……

運動エネルギーと運動量……

力積……


(風を使う。俺自身を加速して撃ち出す)


「クソ狼……お前のせいで……」


セトは背中に風の渦を作り出す。


作用と反作用……

それだけだ……


ドンッ!


セトの背中で風が爆ぜる。

風が空気を押し出す。

セトは背後の空気を強引に押し出した。


(あとは体勢の制御……)


体勢を制御しながら繰り返す。


ドンッ!


また風が爆ぜる。

身体がさらに前へ飛ぶ。

一度目より速い。

もう一度。


ドンッ!


世界が流れる。


(まだいける)


四度目の風。

セトの身体が、ほとんど地面と平行になる。


(喰らえ、クソ狼)


最後の風は腕。

肘の後ろに爆風を作り、右拳を撃ち出す。


グシャァ………


およそ殴っただけでは聞くことのできない音が響いた。

狼の獣人の頭は潰れ、その場に崩れ落ちた。


セトの拳は身体強化をしていても、その衝撃に耐えられなかった。

指はあり得ない方向へ折れ曲がり、腕からは骨が皮膚を突き破っていた。


──ッッ!


セトは痛みに耐えかね、拳を抱えて膝をついた。

言葉を出せないほどの痛みだ。


男は頭の潰れた狼の獣人を見る。

次に、セトの拳を見る。

そしてもう一度、狼の獣人を見る。


「くそ!やりすぎだ!治癒師を呼ぶ!」


男はそう言うと扉を出て、どこかへ行ってしまった。


連れられてきた治癒師は、回復魔法でセトの拳を治療する。

その間セトは関心したようにその治療を見ていた。


「治癒魔法って、骨も治せるんですね」


だが、男はそんなセトの言葉など聞いていない。


(あの身体強化では、あれほどの威力は出ない。風魔法か?いや、あれは風魔法と呼ぶべきなのか?)


男はセトを見た。

七歳の少年。

だが先ほど檻の中で見たものは、少年の戦い方ではなかった。


(……もし、あれを戦場で使えば?だが、あれは兵士として使うべきなのか?)


男の疑問の答えは出なかった。


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