第31話 王立魔法士官養成院
「何をしているんですか!!」
サファンはハーレイの首元を掴み、引摺りながら宿に向かっていた。
「いやぁ、増やそうと思ったんですけどねぇ」
「減っているでしょう!!」
「結果的には」
「結果的にはじゃない!!」
「ここは王家直轄ですよ!恥を晒してどうすんです!」
マクレラン王国は基本的に賭博は禁止。
唯一許されるのが、この王都のカジノだ。
王家の貴重な現金収入源でもある。
サファンの怒りに、ハーレイはいつものことのように軽く対応する。
「だいたいなんでそんなに酒臭いんです!?」
「いただいたからぁ」
「注文したからでしょう!」
「おいしいんですよ?」
「せめて自分で解毒くらいしなさい!」
「これがいいんですよ?わかります?」
宿についてからもハーレイは酔ったままだった。
セトはハーレイに近づく。
「おかえりなさい」
「ただいまぁ」
「……ハーレイ」
「はい?」
「お金は?」
「ありません」
「……」
セトは無言でハーレイを見つめた。
「明日、魔法士官養成院へ行きますよ」
「はい」
「ちゃんとしてくださいね」
「はいはい」
「……本当に反省してます?」
「してますよぉ」
ハーレイは楽しそうに笑った。
それはもう、本当に楽しそうに。
「次は勝てるように反省します」
「違います。まずは騙すように行ったことです。マグナから聞きました。賭け事が好きなんでしょう?そう言えばいい」
「言ったら行っていいんです?」
「勝てるゲームを選んで勝つんです」
「………」
「計算してください」
「それじゃ面白くない」
ハーレイは口を尖らせてベッドに潜り込んだ。
──翌朝。
「二日酔いは?」
「ありませんよぉ」
「解毒したんですか?」
「はい」
「昨日してください」
「昨日は酔っていたかったので」
「……」
セトはもう何も言わなかった。
「坊っちゃん、養成院に向かいます」
マグナに促されて大通りを歩く。
活気はウォルカとは比べ物にならない。
道の両側には商店が並び、行き交う人々の声や馬車の音が絶え間なく響いている。
商人が客を呼び止め、荷物を運ぶ者が忙しそうに行き交う。
「馬車じゃないんですか?」
セトは気になって聞いた。
「あの馬車は……貴族でも持っていません。王族でも。それを王都で乗り回すのは、流石に目立ち過ぎます」
マグナは少しバツが悪そうに答えた。
「もう遅いと思いますよぉ。街道でもみんな見てましたからね。今さらの話だと思いますけど」
ハーレイが軽口を叩くと、サファンが無言でハーレイの頭を小突いた。
そうして大通りを十字に走る横の大きな道を、左に曲がって進む。
その先に石造りの大きな建物が見えた。
山崎の記憶では、国立博物館というものに近い。
ただ、それよりも遥かに大きく、荘厳だった。
高い塔がいくつも空へ伸び、巨大な門の両脇には魔法士を象った石像まで立っている。
セトは思わず足を止めた。
「……ここが学校?」
セトの言葉にマグナが返す。
「学校ではありません。ここは王立魔法士官養成院。魔法を学ぶ場所であると同時に、王国に仕える魔法士を育てる場所です」
「へぇ~……」
「私もハーレイもここで学びました」
その言葉にセトはハーレイを見る。
「その割には人格が整ってないじゃないか」
「そりゃだって、真っ直ぐ鍛えようとしても、曲がる刃も出てくるってもんですよ」
ケタケタと笑いながらハーレイが答える。
「サファンは?」
セトはサファンに目を向けた。
「私はここではないですね。というより出身がマクレランではないので」
ふぅん、とセトは前を向く。
「いいですか?坊っちゃん。マール様から推薦状は頂いております。ですが、編入にあたって、いくつかの試験が課せられます。私たちは、それの手伝いができません。お一人で望むことになります」
マグナがセトに注意事項のように言う。
「適性検査、とでもいいますか。それをパスした後に、寮に入ることになります。その成績次第で、複数人が集まる部屋、一人部屋など、割り当てが変わります」
セトは興味ありそうにマグナを見た。
「一人部屋がいい」
「養成院の中は完全に実力主義。年齢も性別も関係ありません。勉学に励み、才能を伸ばしてください」
「わかりました」
「では、行きますか」
セトたちは養成院の門をくぐった。




