第29話 残響
「あの刺青のこと、話さないんですか?」
宿をとり、部屋に入ったセトはマグナに話しかけた。
「……話しません。殺した野盗の可能性があります」
「何か知っているかも……」
「そりゃないでしょう」
その会話にハーレイが割り込んでくる。
「産後のあの状態で引っ張り出した言葉、あれが全部だと思いますよ」
王都での仕事……
それが何なのか想像もできない。
「組合の印といいましたかね」
サファンはそう言うと考え込んだ。
「組合ってなんですか?」
セトが知っているのは、山崎の記憶にある労働組合などだけだ。
「組合そのものは国ごとにあるものなんです。商人、職人、冒険者……仕事ごとに様々な組合があります」
「じゃあ、あの刺青も?」
「問題は、あの刺青を私は知らないということです」
サファンの言葉に、マグナも口を揃えた。
「私もです」
2人で考えているが、答えはまとまらないようだ。
「じゃあ、知らない組合なんでしょう」
2人の様子を見かねたハーレイが口を開く。
「それで済ませていい問題ですか?」
「いいんじゃない?」
「王都で仕事が決まった、と言っていたのも気になります」
「新しい組合ができたんじゃないか?」
「バレンタで仕事を探すのではなく、わざわざ王都まで行きますか?」
サファンとハーレイが話し合う。
セトは昨日の野盗たちを思い出していた。
五人全員にあった、あの刺青。
そして今日。
あの女性の夫にも、同じものがあった。
「……偶然、なのかな。昨日の野盗にもその刺青は、今日聞いた話と同じものみたいに思える」
「さあ」
ハーレイはベッドに寝転がった。
「偶然って、案外よくありますからねぇ」
「……」
「逆に、必然って言われてるものも、結局は偶然の積み重ねだったりしますし」
ハーレイは欠伸をした。
「考えてわからないことは、まだ答えが出るタイミングじゃないんです。今は寝るタイミングなんですよ」
結論が出ないまま、その日は眠ることになった。
『どこだ………』
あぁ、またあの夢だ。
セトは眠っている。
今聞いている声は、何度も夢で聞いた声だ。
『どこにいる………』
誰かを探している声。
誰を──
『見つける………』
誰かもわからない声。
『必ず………殺す……』
誰を殺す?
『見ぃつけたぁ………』
誰を見つけた?
『ここを……抜ける……あぁ……幾千の……』
なんだ?
『 バージ…… 』
なにを言っている?
「セトぉ!」
セトはそこで飛び起きた。
「……っ!」
息が荒い。
心臓が激しく脈打っている。
「坊っちゃん、大丈夫ですか?」
目の前にいたのはマグナだった。
「……マグナさん?」
「はい。何度呼んでも起きないので」
セトはしばらくマグナの顔を見つめた。
「……そう、ですか」
今の夢の声はなんだった?
誰を呼んでいた?
耳の奥に残る声は、なんと言っていた?
セトはそれが気になって仕方がなかった。




