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生贄の英雄 セト・ウォルカの物語  作者: 下山四郎
Disc01:幼少期─王立魔法士官養成院─
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第27話 峠の野盗



改造馬車は順調に進んだ。


多少速度を上げても揺れは少なく、馬が疲れればハーレイが回復魔法を使う。


その結果、徒歩なら二日かかる街道までの悪路を、一日で走破することができた。

日が暮れ、一行は街道へ出る手前で野営することになった。


「この寝心地なら、座席で寝たい」


ハーレイは馬車の座席に身体を預けながら、心底嫌そうに呟いた。


「何を言っているのですか。護衛が野営を嫌がってどうするのです」

「だって、こっちのほうが寝心地いいし」

「そういう問題ではありません」

「じゃあ、サファンも馬車で寝る?」

「私は外で寝ます」

「ほらぁ」

「何が『ほら』ですか」


サファンが呆れたようにため息を吐く。

それを止める様子のないマグナを見る限り、どうやらこの二人はいつもこういうやり取りをしているらしい。


セトはそんな二人を眺めながら、少しだけ笑った。


ストラス山を出てから、まだ一日。

それでも、少しずつこの三人のことがわかってきた気がする。


マグナは真面目で、責任感が強い。

サファンは規律に厳しい。

そしてハーレイは──


「坊っちゃん、毛布取ってください」

「自分で取れよ」

「立つのが面倒だし、坊っちゃんのほうが近いじゃないですか」

「……」


やっぱり、かなり適当な人だった。


翌朝。

一行は再び馬車を走らせた。

街道へ出れば、道はこれまでとは比べものにならないほど整っている。


改造した馬車と、ハーレイの回復魔法。

その組み合わせによって、一行は予定を大きく上回る速度で街道の街バレンタを目指していた。


しかし。

バレンタまでの峠道に差しかかった、その日の夕方。


「止まれ!」


前方から声が飛んできた。


馬車が止まる。

道の先に、男たちが立っていた。


一人、二人、三人──。

全部で五人。


全員が武器を手にしている。


「荷物を置いていけ。命までは取らねぇ」


マグナが静かに立ち上がった。


「……野盗ですか」


男たちの姿を見て、セトは息を呑む。


そのときだった。

五人の首元や腕に刻まれた、奇妙な印が目に入った。

トライバル柄に近い、見たことのないデザインだった。

五人全員が、同じ刺青を持っていた。


「……なんだ、あれ」


セトが呟く。

マグナの表情が変わった。


「全員、武器を構えろ」


その声からは、先ほどまでの穏やかさが消えていた。


「坊っちゃんは控えて」


マグナはセトを後ろに下がらせる。


この世界の住人は、基本的に誰でも魔法を使える。

つまり、野盗も使える──


野盗の一人が手をかざした瞬間、地面から石が跳ねる。


(地面から石……土魔法?)


その石をマグナが剣で叩き落とす。


野盗のもう一人が炎を飛ばす。

サファンがそれを魔法で逸らす。


(魔法を、魔法で逸らした?)


ハーレイは、


「あー、面倒ですねぇ」


と言いながら馬を守っていた。


(……この人たち、強いかも。対処しながら近づいてる)


「サファン、そこ、危ないかも」


ハーレイがサファンに注意した瞬間、地面が爆ぜた。

しかしサファンは何事もなかったように飛んで避け、野盗を1人ずつ剣で斬りつけていく。


一人。

二人と斬りつけ、三人が逃げようとした。


「野盗は、逃がしません」


サファンの走るスピードが上がる。

それはゼラムが使った魔法とよく似ていた。


(身体強化?)


一人。

二人。

三人。

気づけば、逃げようとした三人は地面に倒れていた。


「このまま放置するのはマズいですね。魔物の餌になるのは避けたい」


既に野盗の死体の周りには羽虫が飛んでいる。

サファンは魔法で土を掘り、そこに五人を埋めて盛土をした。


「律儀だねぇ」


ハーレイはその様子を欠伸をしながら見ていた。

マグナは他に野盗が来ないか、辺りを警戒している。


セトはサファンに話しかけた。


「……埋めるんですか?」

「ええ。人間ですからね。野盗であってもそれは変わりません」


セトは野盗の体にある刺青が気になった。


「……この印は?」

「わかりません。見たことがないです」

「なんでしょうね?」

「さぁ?何かのマークなんでしょうね」


セトはもう一度、埋められた野盗の刺青を思い出した。

暗闇の中では、それが何を意味するのか分からなかった。


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