第25話 二人の道
よく晴れた、その日の朝。
ストラス山の麓に、三台の馬車が到着した。
馬車から降りてきたのは、九人。
そのうち三人が、山道へと足を向けた。
白っぽい服装。
首からは、ひらひらと揺れる紐のようなものを下げている。
一目で宗教家だとわかる身なりだった。
「……迎えに来た人?」
岩窟院の入口から、セトはその姿を眺めていた。
王都へ行く。
そのために、マールが呼んだ人たちだ。
残りの六人は、馬車の周囲で何かを確認している。
武器を持っている者もいた。
「マールさん。あの人たちは?」
「護衛をする者たちです」
「護衛?」
「ええ。私が所属している宗派の者たちですよ」
マールはそう答えてから、少しだけ笑った。
「王都の寺院も古くからあります。そのツテを使って、養成院への編入も、今回の護衛も用意しました。あなたが思っている以上に、ここは重要な施設なんですよ」
それは暗に、自分は凄いと言っているようにも聞こえた。
「マール様」
三人のうち、一人の男が歩み出る。
「到着しました。今回、護衛を務めます、マグナ・カーンと申します」
男はその場で跪いた。
それに合わせ、後ろに控えていた二人も跪く。
三人の動きは、まるで一つの動作を分け合ったかのように揃っていた。
「ご苦労さま。カーン、久しぶりですね。後ろのお二人は初めまして」
声をかけられても、二人は頭を上げない。
「はい。後ろに控えますのは、サファン・クロネ、ハーレイ・オクスウェンにございます」
紹介されて初めて、二人が顔を上げた。
「サファン・クロネです。よろしくお願いいたします」
「ハーレイ・オクスウェンです。よろしくお願いします」
二人はそれぞれ頭を下げた。
セトは三人を見つめる。
この三人が、自分を王都まで連れていく。
「マール様、大司教様から言伝がございます。お時間を作って頂けますか?」
「あら?いいわよ、今でも」
「ありがとうございます」
「中へどうぞ。応接間……と言ってもただのリビングだけど、そこでいい?」
「はい」
「それじゃ、セト、アメリアも一緒に」
「……え?内密、とのことですが……」
「いいのよ。この2人は、もう私の身内。2人は後継者だから」
マールはセトとアメリアを連れて岩窟院に入る。
マグナは残りの2人に入り口の守備を指示し、3人を追うように入っていった。
「それで?話っていうのは?」
「祭壇の件が一つ、魔物絡みが二つ、ですね」
「どういうこと?」
「まず、七年前の空の穴についてです。やっと各地の調査が終わり、詳細が纏まりました。その結果、穴は予定通り、各祭壇の前に出現しましたことが確認できています」
「予定通り?」
「はい。しかし、その中で祭壇が破壊されずに残っているのは、このストラス岩窟院を含めて三つだけです」
「つまり?」
「その三か所では、出現した存在をその場で討ち滅ぼすことができたため、祭壇も残っています」
「なるほど。では、三体しか討てなかった。ということね?」
「はい。十三体のうち、討ち滅ぼせたのは三体。残る十体は、いまだどこかに存在していると考えられています。……そして、その中には四英雄が全員含まれている可能性が高い」
「……」
「次ですが、七年前の一件以降、魔物の動きが活発になっています。獣人が一緒に行動していることが多いので、生活圏が何者かによって脅かされたのではないかと……」
「ウォルカも……その影響で?」
「可能性が低いとは言えませんね……」
その話にセトとアメリアは拳を握った。
「それで、三つ目は?」
「はい。環境中の魔素濃度が急激に変化している地域があります。自然に起こる変化を逸脱しており、何らかの操作が行われている可能性がある、という報告が上がっています」
「なるほど」
それだけ言うとマールは黙り込んだ。
「言伝は、その三つですね?」
「はい」
「では、余計に急がなければなりません」
マールはセトとアメリアを交互に見た。
「セト、あなたはいち早く誰よりも世界の理を理解しなさい。それを糧にして、誰よりも強く未来を守りなさい」
セトは頷いた。
「アメリア、継承の儀式を急ぎます。あなたはここで世界を観測し、監視する。過去は全てあなたに引き継ぎます」
「はい」
アメリアは小さく返事をした。
セトはアメリアを見る。
アメリアも、セトを見ていた。
これからセトは王都へ行く。
アメリアは、この岩窟院に残る。
二人は、別々の道を進むことになる。
「カーン、セトをよろしくお願いします。この2人は希望です。その1人をあなた達に託します」
「お任せください」
マグナは深く頭を下げた。
セトは馬車へ向かう。
その背中を、アメリアが見送っていた。
「セト!」
振り返る。
右手に巻かれたバンダナは父ゼラムの服を繕い直したもの。
母エーコの使っていた髪留め砕けていたが、ピアスにして耳につけている。
「休みになったら、ちゃんと帰ってくるんだよ!」
「うん!」
「姉さん!行ってきます!」
セトは笑って手を振った。
アメリアも手を振り返す。
やがて馬車が動き始める。
少しずつ遠ざかっていく岩窟院。
その前に立つアメリアの姿も、次第に小さくなっていく。
セトは窓から身を乗り出し、最後まで手を振り続けた。
そして。
ストラス山を後にしたセト・ウォルカは、一路、王都マクレランを目指した。




