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生贄の英雄 セト・ウォルカの物語  作者: 下山四郎
Disc01:幼少期─王立魔法士官養成院─
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第24話 旅立つ日まで



迎えが来るまでの七日間、セトは岩窟院でマールやアメリアと過ごした。


その間に、ウォルカで起きた狼の魔物による襲撃について、マクレラン王国から調査団がやってきた。


焼け落ちた村を調べ、狼の死骸を調べ、住民たちの墓を確認していく。


セトも、知っていることを聞かれた。


だが、調査団が帰るまでの間に、セトは一つの事実を知った。


ウォルカという村についてだ。


「ウォルカには、家名を捨てた住民が多かったようですね」

「……そうなの?」

「知らなかったのですか?」

「うん」


そこは、辺境の、地図の端に近いような場所にある小さな村だった。

だが、ただの辺境の村ではない。


捨て子が作った、世捨て人の村。

住民の多くはファミリーネームを持たなかった。

ある者は家名を捨てた。

ある者は、元々名前すら与えられなかった。


奇形。

病気。

貧困。

家族との不和。

あるいは、ただ生きていることを拒絶された者。

事情は人それぞれだった。


だが、共通していることが一つだけある。


誰かに捨てられた者たちだった。


(俺も、捨てられたんだよな)


そんな者たちが流れ着いた場所が、ウォルカだった。


「……そんな村だったんだ」


セトは初めて知った。


父さんも。

母さんも。

ケメルさんも。

ラキストも。

みんな、それぞれ何かを抱えて、この場所に来たのだ。


なぜ来たのか。

誰に捨てられたのか。

何を捨ててきたのか。

それを調査団から聞くことはできなかった。


そもそも、生き残った住民がほとんどいない。

もう、本人たちに聞くことはできない。


セトは焼け落ちた村を見つめた。

自分が生まれ育った場所。

当たり前のように家があり、食事があり、父と母がいて、隣人がいた。


それが、当たり前ではなかった。


「……父さんたちも、捨てられたのかな」


答える者はいなかった。


「それでも皆家族だったんだよ」


それがアメリアがセトに掛けた言葉で、唯一の正解のように思えた。


空に開いた穴についての詳細もマールに聞いた。


あれはアシュレイたちが脱出してきた出口。

そして、いつか彼らが戻る日に備えて、世界各地に同じような施設がいくつもある。


その数は13。


「13?」

「ええ。一か所から全員を出させるわけにはいきませんから」


マールは、崖に残された祭壇を見つめた。


「穴が開いたとき、できるだけ穴そのものを大きくさせず、一人分に押し留める。そして、そこから出てくる者を迎撃する」

「じゃあ、穴は勝手にここに開くの?」

「いいえ」


マールは首を横に振った。


「空間の乱れを感知し、その発生位置を13の施設のいずれかへ誘導するのです」

「この祭壇が?」

「そうです。あの夜、アシュレイが暴れた場所。あの祭壇も、そのために存在しています」


セトは祭壇を見つめた。


「じゃあ……マールさんは、ずっとここで待ってたの?」

「ええ」


マールは静かに答えた。


「いつか、彼らが戻ってくる日まで」


だから、この寺院の役目は、観測と監視。

だから、この寺院の巫女は、途絶えない。


「申し訳ありませんでした」


そこまで話すと、突然マールはセトとアメリアに頭を下げた。


「七年前、私が討ち滅ぼしていれば、あの悲劇は起きなかった。責任の一端は私にあります」

「……」


セトは何も言えなかった。

マールが悪いとは思わない。


あの夜、マールは戦っていた。

アシュレイを止めようとしていた。

自分だって傷ついていた。


それでも。

もし、もっと早く。

もし、もっと強ければ。

そう考えてしまうのだろう。


「……マールさんのせいじゃないよ」


セトは小さく呟いた。


「だって、マールさんが悪いわけじゃない」


4000年前。

人が魔法を使いすぎた。

魔素を変えすぎた。

そして、魔物を生み出した。

それがすべての始まりだった。


「……誰のせいなんだろうね」


セト自身にも、答えはわからなかった。

ただ一つだけ、わかっていることがある。


自分は、もう二度と。

父を。

母を。

村のみんなを。

守れなかった自分を、繰り返したくない。


そのために、強くなる。

そのために、学ぶ。


そして──


いつか、あの化け物たちを止める。

セトはそう思いながら、崖に残された祭壇を見つめていた。


七日はあっという間に過ぎた。

セトが王都に向かう日の朝は、いつもと変わらない眩しい朝日で始まった。


セトの荷物は、以前よりずっと少なかった。

村はもうない。

持っていくものも、ほとんど残っていなかった。

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