第23話 帰る場所
「勉強……?」
セトは大卒の山崎響一としての知識を得ている。
魔法もケメルに1年とはいえ、師事していた。
今更勉強が必要だと思わなかった。
「俺、色々知ってるけど」
「知っています」
「山崎さんの知識もある」
「ええ。それでもです」
マールはセトを真っ直ぐ見つめた。
「知識を持っていることと、学ぶことは同じではありません」
「……?」
「あなたの中にあるものは、そのヤマザキという人間が生きた結果です。あなたが学んだものではない」
「……」
「だからこそ、あなた自身の知識にしなさい」
「俺自身の……」
「そうです」
ここで響一の記憶が呼び起こされる。
眠たい授業。
興味のない話。
顔色を伺う同級生との会話。
(うん。面倒だな)
「でも、知ってるならいいんじゃないの?」
セトは本心を隠して食い下がった。
「では、あなたの知識の源は?」
「だからそれは、山崎の記憶──」
「それはヤマザキが知っていたことでしょう?」
「……」
「あなたは、その知識を自ら得たのですか?」
セトは言い返すことができない。
「知っているだけなら、あなたは山崎響一の記憶を再生しているだけです」
更にマールは畳み掛ける。
そして、おそらくセトの本心は見透かされている。
「学ぶというのは、自分で疑問を持ち、自分で確かめ、自分の答えを作ることです」
(言ってることはわかる。というか、確かに知らないことばかりだ)
(魔素のことだって、ケメルさんに教えてもらったことしか知らない)
(焦臓も、魔法のことも、古代文明のことも)
「……わかった」
「それじゃあ、7日後に迎えが来ます。王立魔法士官養成院に編入する手続きは既に済んでます」
(………ハメられた)
「姉さんは?」
「アメリアは、私の役目の一部を継承するため、ここで修行します」
「……姉さんと離れるの?」
「ずっとではありません。あなたが戻ってくる場所は、ここですから」
「……そっか」
「なに、心配することはありません。養成院には春と秋に長期の休みがあります。セト・ウォルカ、あなたの家はここです。帰る場所はあります」
それまで黙っていたアメリアが口を開いた。
「アンタはあたしの弟だよ?セト、あたしはここで監視する。アンタは外で魔法を磨く。もう目の前の大切なものを失わないように」
「うん」
「あたしはここで、その役目を継承する。アンタのことも、歴史も神話も全部知った。その上で、引き受ける。アンタは?」
「俺は……強くなる」
「それで?」
「二度と、手を伸ばして助けられない命を見たくない」
「じゃ、頑張らないとね」
「わかった」
「休みのときは必ず帰ってきなさい」
アメリアはセトの頭を乱暴に撫でた。
たぶん、なんとなくだが、アメリアには、セトが頭を少しだけ寄せたように感じた。
子ども扱いだったが、それがセトにはたまらなく嬉しかった。




