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生贄の英雄 セト・ウォルカの物語  作者: 下山四郎
Disc01:幼少期─王立魔法士官養成院─
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第23話 帰る場所



「勉強……?」


セトは大卒の山崎響一としての知識を得ている。

魔法もケメルに1年とはいえ、師事していた。

今更勉強が必要だと思わなかった。


「俺、色々知ってるけど」

「知っています」

「山崎さんの知識もある」

「ええ。それでもです」


マールはセトを真っ直ぐ見つめた。


「知識を持っていることと、学ぶことは同じではありません」

「……?」

「あなたの中にあるものは、そのヤマザキという人間が生きた結果です。あなたが学んだものではない」

「……」

「だからこそ、あなた自身の知識にしなさい」

「俺自身の……」

「そうです」


ここで響一の記憶が呼び起こされる。

眠たい授業。

興味のない話。

顔色を伺う同級生との会話。


(うん。面倒だな)


「でも、知ってるならいいんじゃないの?」


セトは本心を隠して食い下がった。


「では、あなたの知識の源は?」

「だからそれは、山崎の記憶──」

「それはヤマザキが知っていたことでしょう?」

「……」

「あなたは、その知識を自ら得たのですか?」


セトは言い返すことができない。


「知っているだけなら、あなたは山崎響一の記憶を再生しているだけです」


更にマールは畳み掛ける。

そして、おそらくセトの本心は見透かされている。


「学ぶというのは、自分で疑問を持ち、自分で確かめ、自分の答えを作ることです」


(言ってることはわかる。というか、確かに知らないことばかりだ)

(魔素のことだって、ケメルさんに教えてもらったことしか知らない)

(焦臓も、魔法のことも、古代文明のことも)


「……わかった」

「それじゃあ、7日後に迎えが来ます。王立魔法士官養成院に編入する手続きは既に済んでます」


(………ハメられた)


「姉さんは?」

「アメリアは、私の役目の一部を継承するため、ここで修行します」

「……姉さんと離れるの?」

「ずっとではありません。あなたが戻ってくる場所は、ここですから」

「……そっか」

「なに、心配することはありません。養成院には春と秋に長期の休みがあります。セト・ウォルカ、あなたの家はここです。帰る場所はあります」


それまで黙っていたアメリアが口を開いた。


「アンタはあたしの弟だよ?セト、あたしはここで監視する。アンタは外で魔法を磨く。もう目の前の大切なものを失わないように」

「うん」

「あたしはここで、その役目を継承する。アンタのことも、歴史も神話も全部知った。その上で、引き受ける。アンタは?」

「俺は……強くなる」

「それで?」

「二度と、手を伸ばして助けられない命を見たくない」

「じゃ、頑張らないとね」

「わかった」

「休みのときは必ず帰ってきなさい」


アメリアはセトの頭を乱暴に撫でた。

たぶん、なんとなくだが、アメリアには、セトが頭を少しだけ寄せたように感じた。


子ども扱いだったが、それがセトにはたまらなく嬉しかった。


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