第22話 学門にすすめ
転写が終わり、山崎響一の知識はセトへと移された。
その確認が終わると、山崎響一の身体は、生命維持に使われていた祭壇から静かに降ろされた。
もう、魔素を送り続ける必要はない。
長い眠りから覚めることもなく、山崎響一は静かに息を引き取った。
「自分の死を、自分で見るのは……なんて言ったらいいのかわからない」
セトはそれだけ呟くと、奥の部屋をあとにした。
自分の中には、確かにこの男の人生がある。
それでも、目の前の男を見ても、自分自身とは思えなかった。
岩窟院を出る。
冷たい山の空気が頬を撫でた。
セトは足を止め、眼下を見下ろす。
そこには、焼け落ちたウォルカがあった。
「父さん……母さん……」
山崎響一の記憶を取り込んだ。
電力会社で働いていたことも。
電験二種を目指していたことも。
結婚したことも。
離婚したことも。
子供がいたことも。
それらは確かに、セトの中にある。
けれど。
父親はゼラムだった。
母親はエーコだった。
それだけは、何一つ変わらなかった。
セトは無言で村に下りる。
ウォルカ川の流れは、いつもと変わらない。
村だけが、変わっていた。
焼けた家々。
黒く煤けた地面。
風が吹くたび、焼け焦げた木材が小さく音を立てる。
昨日までなら、どこかの家から声が聞こえていた。
ケメルの怒鳴り声。
ラキストの笑い声。
エーコがセトを呼ぶ声。
今は、何も聞こえない。
川の音だけが、いつもと変わらず流れていた。
セトは遺体を一人ずつ、丁寧に運んだ。
壊れた家の木材を組み合わせ、棺を作る。
そして、丁寧に広場へ集めていく。
魔法で穴を掘る。
そこに、一人ずつ棺を収めていく。
穴を埋めるのは、素手だった。
魔法でやれば、すぐに終わる。
それでも、セトにはこれだけは魔法を使いたくなかった。
土を掴む。
一握りずつ、棺の上へ落としていく。
一人。
また一人。
一人ずつ、土の中へ帰っていく。
セトは、最後まで魔法を使わなかった。
墓碑は、河原から運んだ大きな石を使った。
名前を確認し、魔法で一文字ずつ刻み込む。
それを、夜まで繰り返した。
日が暮れ、月明かりが、静まり返った村を照らしている。
その中で、最も明るい場所に三つの墓が並んでいた。
ゼラム。
エーコ。
ケメル。
最も大きな石は、この三人のために使われた。
「セト……」
アメリアがセトの後ろにいた。
「マールさんが、帰りが遅いから見てきてって」
アメリアはセトの横に並んだ。
「姉さん、これでみんな眠れるかな?」
夜空の三つの流れ星が光った。
──翌朝、セトはアメリアに起こされた。
「セト!マールさんが呼んでる」
朝のまだ早い時間だ。
朝ごはんどころの話ではない。
日も昇りきっていない。
「早すぎる……」
セトは文句を言いながら、起き上がる。
昨日は墓を建てたあと、家の様子を見に行って、思い出の品を持ち出したのだ。
寝るのも当然遅くなっている。
わずか数時間で起こされたセトは、眠たい目を擦りながらマールの部屋に向かった。
そこには既にマールとアメリアがいた。
「セト、朝早くにごめんね」
マールはどこかいつもの遠ざけるような口調ではなかった。
「大切な話があります」
マールは一呼吸置いた。
「あなたには、王都マクレランで勉強してもらいます」
今更学ぶ必要があるのか?
セトの思いは、きっと聞き入れられない。
そんな気がした。




