第20話 セトの選択
「そうだ!アメリアは?」
それが選択を迫られたセトの第一声だった。
「アメリアは今、村の様子を見に行っています」
「僕も見てくる!」
セトはそう言うと部屋を飛び出していった。
それをマールは追うことができない。
ふらつく彼女は壁にもたれ、そのまま座り込んだ。
観測者であり監視者。
その役割のために、体の組成組織を魔法で無理矢理若くして身体能力を保っているが、実年齢は69歳。
寿命は普通の人間と変わらない。
さらにアシュレイとの戦闘後の治癒。
不完全──
正確には、ある程度の再生は促進された。
しかし、同時に異常な細胞増殖も引き起こしていた
(癌……ね)
回復魔法による弊害。
(もう身体が言うことを聞く年齢を超えてしまった……)
それがマールの今だ。
──岩窟院の入り口にアメリアはいた。
村の様子を見に山を下りたが、戻ってきていた。
「アメリア!みんなは!?」
それを見つけたセトが声を掛けたが、アメリアは泣き腫らした顔を振り、その場に崩れ落ちた。
「みんな……死んじゃった……」
信じられなかった。
強い父。
優しい母。
その全てが、死んだ?
「ケメルさんは?」
「死んじゃった………」
「嘘だ──」
「死んじゃったの!」
誰よりも強いと思っていた。
「父さんは……」
「死んでた……」
「でも……」
「死んでたんだよぉ!」
誰にも負けないと思っていた。
「母さんも?」
「………うん」
セトは山を駆け下りた。
嘘に違いない。
そんなはずない。
「………母さん」
山の麓。
エーコの遺体はそこにあった。
右腕はなくなり、大量の血の跡の上に横たわっていた。
もうセトを優しく抱き上げることも、顔を両手で包むこともできない。
「母さん……」
溢れる涙は慟哭へと変わった。
セトは村の至る所を見て回った。
焼け落ちた村。
焼け焦げた狼の魔物。
ラキストの食い荒らされた遺体も見た。
もう遊んで回ることはできない。
「ラキスト………」
薪割りは、まだ二人とも上手くなっていない。
村の広場にはケメルの遺体もあった。
──そして、その近くにゼラムの遺体もあった。
「父さん……」
あんなに強かった父は、もう動かない。
「父さん……」
いつものように飛んで跳ねてすることもない。
揺すっても起きない。
セトの叫び声よりも大きな慟哭は、岩窟院まで届いた。
──そして、セトは岩窟院へと戻った。
(僕は、何もできなかった)
セトは泣き腫らした顔でマールを見る。
「僕に、その人の知識を転写してください」
それがセトの選択だった。




