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生贄の英雄 セト・ウォルカの物語  作者: 下山四郎
Disc01:幼少期─ストラス山の少年─
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第20話 セトの選択



「そうだ!アメリアは?」


それが選択を迫られたセトの第一声だった。


「アメリアは今、村の様子を見に行っています」

「僕も見てくる!」


セトはそう言うと部屋を飛び出していった。


それをマールは追うことができない。

ふらつく彼女は壁にもたれ、そのまま座り込んだ。


観測者であり監視者。

その役割のために、体の組成組織を魔法で無理矢理若くして身体能力を保っているが、実年齢は69歳。

寿命は普通の人間と変わらない。


さらにアシュレイとの戦闘後の治癒。

不完全──

正確には、ある程度の再生は促進された。

しかし、同時に異常な細胞増殖も引き起こしていた


(癌……ね)


回復魔法による弊害。


(もう身体が言うことを聞く年齢を超えてしまった……)


それがマールの今だ。


──岩窟院の入り口にアメリアはいた。

村の様子を見に山を下りたが、戻ってきていた。


「アメリア!みんなは!?」


それを見つけたセトが声を掛けたが、アメリアは泣き腫らした顔を振り、その場に崩れ落ちた。


「みんな……死んじゃった……」


信じられなかった。

強い父。

優しい母。

その全てが、死んだ?


「ケメルさんは?」

「死んじゃった………」

「嘘だ──」

「死んじゃったの!」


誰よりも強いと思っていた。


「父さんは……」

「死んでた……」

「でも……」

「死んでたんだよぉ!」


誰にも負けないと思っていた。


「母さんも?」

「………うん」


セトは山を駆け下りた。

嘘に違いない。

そんなはずない。


「………母さん」


山の麓。

エーコの遺体はそこにあった。

右腕はなくなり、大量の血の跡の上に横たわっていた。


もうセトを優しく抱き上げることも、顔を両手で包むこともできない。


「母さん……」


溢れる涙は慟哭へと変わった。


セトは村の至る所を見て回った。

焼け落ちた村。

焼け焦げた狼の魔物。

ラキストの食い荒らされた遺体も見た。

もう遊んで回ることはできない。


「ラキスト………」


薪割りは、まだ二人とも上手くなっていない。


村の広場にはケメルの遺体もあった。


──そして、その近くにゼラムの遺体もあった。


「父さん……」


あんなに強かった父は、もう動かない。


「父さん……」


いつものように飛んで跳ねてすることもない。

揺すっても起きない。


セトの叫び声よりも大きな慟哭は、岩窟院まで届いた。


──そして、セトは岩窟院へと戻った。


(僕は、何もできなかった)


セトは泣き腫らした顔でマールを見る。


「僕に、その人の知識を転写してください」


それがセトの選択だった。

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