↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生贄の英雄 セト・ウォルカの物語  作者: 下山四郎
Disc01:幼少期─ストラス山の少年─
19/139

第19話 山崎響一



彼は電力会社に勤めている。

主任技術者として、電験二種の資格試験を控えていた。

そんなとき、会社で不運な事故が起きた。


確かに誰かのミスはあった。

だが、本来のその場にいるはずのない作業員が巻き込まれた。


それが響一だった。


変圧器の操作。

本来遠隔操作する断路器。

操作中は入ってはいけない室内。

そこに彼はいた。


「断路器、操作します」


その操作は、遠く離れた操作室内、電力会社の支店ビル内で行われる。

彼はその操作が完了した連絡を受けるまで、動くべきではなかった。

少なくともマニュアル上は。


響一は手元の手順書を確認した。

本来なら、ここにいる必要はない。

だが、奥の変圧器室へ向かうには、この部屋を通るしかなかった。

古い地下変電所では、珍しくない構造だ。


「……早く行くか」


その瞬間だった。


バチィィィッ!!


移動中に操作された断路器から伸びるアークに当たり、響一は瀕死の重傷を負った。


一人で動いていたのも良くなかった。

本来は二人一組だ。

もう一人は変電所の制御室でタバコを吸っていた。


発見されることはなかった──


そこに英雄たちが開いた穴が現れ、響一は瀕死のまま封印の空間へと巻き込まれた。


その世界がどうなったのか──

それは誰も知らない。


しかし響一は封印の空間に囚われた。


そこは全てが引き伸ばされる。

米粒の端から端まで永遠に伸び、決して向こう側に辿り着けない空間。


時間も、空間も、全てが無限であり、全てが限りなく停止しているに等しい空間。


だから彼は、瀕死のまま停止していた。


塵芥同然の響一に英雄たちは興味も示さず、穴を開けては外に出て暴れた。




そして、響一はアシュレイと共に、マールの目の前に落ちてきた。


「誰ですか?これは……」


セトは見たことがあるような、ないような人物を指差して言った。

祭壇に寝かされた中年の男、山崎響一。


「わからない。見たこともない文字で書かれたものを持っていた、ということはわかってる」

「なぜ……この人のことを、僕に?」


マールは眉を下げ、申し訳なさそうな顔をした。


「私は……アシュレイを取り逃がした。そしてその人が傍らにいるのを見つけ、保護した。治療し、脳内を覗いた。使える知識が詰まっていた」


そこで言葉を区切る。

天井を仰ぎ見て、ため息をつく。


「私は禁呪の巫女。祭壇にて英雄の封印を監視する者。代々受け継ぐ禁呪で封印を観測する者」


マールはセトを見た。

その瞳は揺れていた。


「私の魔法も知識も役割も、代々継承されてきました。そして、私はこの男性を見たとき、使えると判断しました」


マールの顔が、悲しそう、というより、申し訳なさそうになる。


「本来あなたが15歳、成人するまで話すつもりはなかったんです」


マールはセトの目を見て言葉を紡いだ。


「鏡像魔法も転写魔法も禁呪です。しかし私はこの岩窟院の前に捨てられた赤子に、この人の知識を転写した。その赤子が、あなたです。セト」


セトは何を言われているのかわからない。


「私自身、どこまで正確に転写できたのかわからなかった。だから、7歳を迎えるときにここに来ること。それからは年に2回ここに来ること。それを約束としました」


マールはセトに歩み寄る。


「不正確なままでは、英雄に立ち向かうことができないのです。これからもう一度転写魔法を使います。ですが、あなたが嫌がるなら、やりません。選ぶのは、あなたです」


セトはなにも答えられない。

なにを言われているのかわからない。


(僕は、セトじゃない?)


「転写は、知識だけに絞れない。……知識と記憶は、脳では切り離せない。記憶を伴わない知識だけを移すのは、できない相談なの。だから覚悟して。あなたの頭に、他人の人生が流れ込む。あなたがあなたでいられるかは、それからの話よ」


(僕は、誰になるの?)


「あなたを私の後継者にするつもりだったのです。ごめんなさい」


(僕の父さんと母さんは?)


セトの考えはまとまらなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。