第18話 神話の真相
セトは動かなくなったアシュレイを確認すると、マールのもとに駆け寄った。
左脇腹の傷は深い。
左腕もグチャグチャに切り刻まれている。
血が止まっていない。
(動脈もなにも、これは……ヤバいぞ)
「マールさん!」
揺すって起こそうとするが、意識は薄いようだ。
「アメリア!回復魔法使える!?」
「無理よ!そんなに深い傷!」
(どうする……どうする……)
「……セト……再生するの……構造はわかる?」
意識の混濁するマールがセトに指示する。
「細胞は……わかる、わね?魔素で……再生を……早め……」
理屈はわかる。
人体の構造もある程度わかる。
だが、詳細なことになると、医学知識が圧倒的に足りない。
(細胞分裂を促進するだけなら……でも、血管は?神経は?筋肉は?)
(全部、同じ速度で増やしたらどうなる?)
(失敗したら、どうなるんだ?)
「……無理だ」
「無理じゃ……ない……」
「マールさん?」
「あなたなら……できる……」
(やるしかない)
血管を繋ぐ。
神経を繋ぐ。
筋肉を繋ぐ。
それぞれを、別々に。
──そして夜が明ける。
岩窟院の隙間から、朝の光が差し込んでいた。
昨夜まで燃えていた村からは、まだ薄く煙が上がっている。
「セト。起きなさい、セト」
起こされたセトの目の前にはマールがいた。
硬い石の上に寝ていたセトの体はバキバキだ。
少し伸びをしてから起き上がる。
「ちょっとこっちに来てちょうだい」
セトはマールの後ろをついて行く。
「マールさん、動けるの?」
セトは昨日の回復魔法が成功したのか気になった。
「ある程度あなたがやってくれたから、あとは自分でどうとでもできるのよ」
それだけ言うと、マールは私室だと言った部屋へと案内した。
セトは、その扉を見て足を止めた。
以前、マールに「入ってはいけない」と言われた場所だった。
「入っていいの?」
「必要なことです」
マールが扉を開ける。
その先には、なにやら文字の刻まれた壁があった。
「あなたにはこれを聞かせる必要があります」
「……なんのことでしょう?」
マールはその壁に刻まれた文字を指し示した。
「英雄の神話の真実です」
──かつて古代人は永遠に生きていた。
正確には、転写魔法で永遠に人格を維持していた。
老いたら新しい個体へ乗り変わる。
それをくり返すために、人口密集地は特に魔素環境を改変する必要があった。
結果としてその環境破壊と、魔素の不均衡化が魔物を生み出し、滅びの道を進む。
しかし、4人の英雄とされる人物たちは、自らの体を改変して魔物に立ち向かう。
──融合魔法。
そうして融合を重ねると、魔物としての意識まで芽生え、人としての意識と混在するようになる。
街の維持が可能なまでに魔物を追いやることができたが、古代人たちは異形の英雄を危険視した。
その結果、亜空間に閉じ込めるという方法をとり、彼らを封印した。
その封印に反対した9人の一般人とともに。
彼らは滅びとともに戻ってくる。
復讐のために。
「これが英雄の神話の真実です」
セトは壁に刻まれた文字を見つめていた。
「……じゃあ」
口から、言葉が漏れる。
「僕たちが知っている英雄は……」
「ええ」
マールは静かに答えた。
「嘘です。都合よく書き換えられたものです」
マールは静かに息を吐いて言葉をつないだ。
「昨日の、アシュレイ。あれは従者と名乗りましたが、ともに封印された一般人。古代人です」
(あれが……一般人?)
「アシュレイが落ちてきたとき、彼らは他の世界も渡り歩いてやっと戻ったと言っていました。おそらく、そこで彼らも融合を繰り返したのでしょう」
(どういうことだ……)
「そして、アシュレイと共に落ちてきた者がいました」
マールは部屋の奥にある、天幕のかかった祭壇のような場所にセトを案内した。
「彼も一緒に落ちてきました」
そこには見たこともない服を着た、中年の男性が横になっていた。
静かだった。
生きているのかどうかさえ、セトにはわからない。




