第2話 近所の少年
ウォルカ村は辺鄙な村だ。
一軒一軒の家は離れ、踏み固めただけの道が続いている。
村の中央を南北に川が流れ、村人たちはその水を生活用水として使っていた。
北には高い山がそびえている。
そこから伸びた尾根が、東と西を塞ぐように回り込んでいた。
北の山には寺院があると聞いている。
南へ行けば街道がある。
ただし、街道までは歩いて2日。
行商人が来ることもあるが、ウォルカ村を目的地にしなければ、わざわざ立ち寄るような場所でもない。
山と尾根に囲まれた袋小路。
それが、ウォルカ村だった。
「……暇だ」
セトは川の土手に座り込んでいた。
昼ごはんを食べ、家事を言いつけられる前に逃げてきた。
6歳児に食事と運動をさせたら、次は昼寝である。
セトは大きな欠伸をすると、ゴロンと横になり、そのまま昼寝をする。
「セト、遊ぼうぜ!」
ちょうど睡魔に襲われて、一番気持ち良く眠りに落ちそうなタイミングで、声をかける者がいた。
隣の家──と言ってもセトの家から50mほど離れている。
そこに住む1歳年上のラキストだ
「眠いんだ」
「眠くないぞ」
「いや、僕が眠いんだ」
「遊ぼうぜ!」
会話が通じない。
子どもはいつもこうだ。
セトも子どもだが。
「何して?」
「川!」
「泳ぐの?」
「違う。石投げ」
「それ楽しい?」
「楽しい!」
楽しいのか?
セトには、よく分からなかった。 何かをするなら、何か理由があるものだと思っていた。
それでも、ラキストがあまりに楽しそうなので、セトは体を起こした。
「こうやってな、手を横にやって投げるんだ!」
勢い良く投げられた石は、水切りを3回してポチャンという音とともに川に消えた。
「見たか!跳ねるんだ!」
「うん。水切りだろ?」
「なにそれ?」
「こうするんだ、よっ」
セトが投げた石は、5回跳ねた。
「なんだよ!お前もできるじゃん!」
「平たい石をな、こう、横にして投げるんだ」
「え?これ魔法じゃねぇの?」
「こんなくだらない魔法あるの?」
「知らない」
2人は水切りの回数を競って投げ合う。
「そう言えばさ、お前、昨日また変な魔法使ってただろ」
「薪割り?」
「あれ薪割りじゃないだろ」
「薪割りだよ」
「俺の知ってる薪割りと違う」
「どうやるの?」
「どうって、そりゃあ薪割りは、こう斧を持って、ふん!ってやるんだ」
ラキストは斧を振り下ろす真似をしてみせた。
「やってみるか?」
「え?やだよ。斧とか危ないし」
「いいから来いよ!」
7歳と6歳の体格の差、これは如何ともし難い。
たった1年の差だが、子どもにとっては大きい。
セトはラキストに引きずられるように、ラキストの家へ向かった。
「じゃあ、お前もやってみろよ」
ラキストは斧を持ち出してセトに手渡す。
セトを引きずって来たのに、全く息切れしていない。
逆にセトは無駄に抵抗したため、肩で息をしていた。
「……重い」
「普通だよ」
「これ、魔法使った方が早くない?」
「だから薪割りはそういうもんじゃないって!」
セトは渋々、全く納得がいかない表情のまま斧を振り上げ、フラフラとしていた。
「危ない!ちゃんと止まれ!狙え!」
少し離れたところでラキストが騒いでいるが、セトはそれどころではない。
ヤバい!
バランス取れない!
そのままセトは斧を手放した。
ドスン!!
斧が大きな音を立てて、セトの後ろに落下する。
「セト!」
ラキストが駆け寄る。
「怪我ないか?」
「ない」
「危ねぇだろ!」
「だって重いんだもん」
「だからちゃんと持てって言っただろ!」
2人は地面に突き刺さる斧を見つめた。
綺麗に刺さっている。
「見本見せてやる」
ラキストは斧を引き抜いて、薪の前に立つ。
股を開いて重心を安定させ、斧を振り上げた。
ダン!
振り下ろされた斧は、薪に突き刺さっている。
ヒビが薪の中ほどまで入り、もう少しで割れそうだ。
「魔法のほうが楽そうだよ」
「だから薪割りはそういうもんじゃねぇって!」
「でも割れてないよ?」
「これから割れるんだよ!」
「いつ?」
「……うるさい!次で割れるんだよ!」
ダン!
……割れない。
「……」
「……」
「やっぱり魔法のほうが楽そう」
「うるせぇ!」
もう夕暮れが近い。
夜は闇に閉ざされる。
暗くなる前に帰るのが、常識だ。
「明日も遊ぼうぜ!」
「今日みたいなのは嫌だ」
「じゃ、明日待ってるからな!明日も特訓だ!」
「……明日は逃げよう」
セトはうんざりする気持ちを抱え、肩を落として家に帰った。




