第16話 穴から堕ちた者
山を登るセトとアメリア。
呆然とするセトは魔法を使う余裕などない。
徒歩で、時折セトを抱えてアメリアは山を駆けた。
山の中腹。
岩窟院はもうすぐそこ。
そこからは、燃え上がる村がよく見えた。
「村が……ウォルカが……」
二人にとってはさっきまでいた場所。
故郷。
そして平穏を過ごしてきた日常。
それが、眼下で燃えていた。
「戻らないと……」
「駄目だよ」
アメリアがセトの手を強く握った。
「今戻ったら、あんたまで死ぬ」
「でも、母さんが……父さんも、まだ……」
「……」
アメリアは答えられなかった。
その時、何かが岩窟院に向かって飛んでいくのが見えた。
「とにかく、セト!今はあそこに行くよ!」
アメリアは岩窟院を指さした。
──ストラス岩窟院祭壇。
そこにはマールがアシュレイを待ち構えていた。
「7年ぶり、ですかね」
「アシュレイ……」
「お久しぶりです。お嬢さん。借りを返しに来ました。」
7年前、ストラス山の空に開いた大穴。
そこから落ちてきたのが、アシュレイだった。
「あなたは観測者。そして監視者。我々の帰還を阻止する者」
「そうですよ。あのときは逃げられましたがね」
あの空の大穴。
それは、彼らを閉じ込めていた檻に開いた出口だった。
彼らはそこから帰還した。
穴の数は全部で13。
そのうちの一つが、ストラス山だった。
「4000年前から続く伝統ですか?一体誰の意思を継承してきたのやら」
「相変わらず無駄口が多いですね」
「いいじゃないですか。4000年前、我々を閉じ込めたのです。久々なんです。お喋りしませんか?お嬢さん?」
マールは祭壇に仕掛けた鏡に光を当てる。
その鏡は次の鏡に反射して、光は檻のようにアシュレイを囲った。
「あなたの予言は鏡像魔法の応用。それは私もできる。未来の予言?何を考えているか読み取るだけでしょう?」
「だからなんです?」
「目を見ている」
マールが鏡へ魔素を流す。
「視神経から入った情報を辿って、脳の活動を読む。あなたが次にどこへ動くつもりなのか。それを先回りしているだけ」
「…………」
「あなたの身体能力そのものは脅威じゃない」
マールは鏡に映るアシュレイを見つめる。
「あなたの目は見なくていい」
「……」
「この光の檻だけ見ていれば、あなたの位置はわかる」
アシュレイは口元を上げ、笑いだした。
「アハハハハ!傑作です。私の身体能力が大したことない?人型でいるだけです。この服お気に入りなんですよ!体を崩すと服が着れないんです」
アシュレイの身体が隆起する。
背中がボコボコと脈打ち、肩が異様な方向へ膨らんだ。
「……ッ」
マールが息を呑む。
その足は、わずかに後ずさった。
アシュレイの顔が崩れていく。
人の顔ではない。
そこに現れたのは、5つの目を持つ巨大な牛の頭部だった。
首から下は人のようでありながら、腰から下は蜘蛛。
「お嬢さん」
牛の口が、不自然に笑った。
「そろそろ死んでいただけますか?」




