第15話 ウォルカ炎上
──セトの家の前。
セトとエーコを逃がしたあと、ゼラムは一人で狼の群れに対処していた。
素早く群れで襲いかかる狼を一匹ずつ葬る。
確実に、討ち漏らしなく、淡々と。
やがて狼の数が少なくなり、広場の方へと向かう。
そこには、もう狼の遠吠えすらなかった。
見えるのは死屍累々の狼の山。
「ケメルさん」
「おや?ゼラムかい?」
「はい。派手にやりましたね」
「アンタはどうなんだい?あたしだけが暴れたんじゃないだろう?」
「向こうは片付きました」
「そうかい。セトは?アメリアをそっちに向かわせたんだけどね」
「逃げた、と思います」
「獣人もこっちにはいたよ。吹っ飛ばしたけど。アンタのとこは?」
「こっちにもいました。頭砕いてるんで、死んでるはずです」
二人が一息ついた、その時だった。
ふと、ゼラムが空を見上げる。
月は雲に隠れている。
その雲の下に、人影があった。
スーツ姿に髪型はオールバックの紳士風の男。
この世界にはない格好をした男が、空に立っている。
パチパチと拍手をしながらゼラムとケメルの目の前に降りてくる。
「いやいや。驚きました。なかなかやりますね」
見たことのない格好の男が、ニヤニヤしている。
「なんだい?アンタ……」
ケメルの話を無視して、男はそのまま話し続けた。
「少しあそこの山に用事があって来てみたら。まぁこんなお祭り騒ぎですからね。見物させていただきました」
そう言って両手を左右に広げて、2人に歩み寄ってくる。
「私、予言のアシュレイと申します。ついでですので、御二人の予言を致しましょう」
ストラス山は今、セトとアメリアが逃げている最中だ。
行かせはわけにはいかない。
ジャリ──
「おっと、そこの男性のあなた。右足でいいんですか?動かす足はそちらですか?」
「なにを!」
身体強化をして普通は目で追うことなどできないゼラムの拳は空を切った。
「言ったでしょう?私は予言のアシュレイ。あなた方に起こり得る未来は全て見えています」
「そんな魔法があるかい?聞いたことないねぇ」
「あるんですよ。お嬢さん。私は従者、四英雄の付き人です」
四英雄………
かつて世界を救った四人の英雄。
その従者………
「わかっていれば避けられます。この服いいでしょう?お気に入りなんです。汚さないでくださいね」
「ふざけんな!」
ゼラムの繰り出す拳は悉く空を切る。
ケメルの風も全て避けられる。
「坊っちゃんが右から来る」
「お嬢さんがその隙に左から攻撃する」
「坊っちゃんが避けられた場合、次にこう動く」
ブツブツと呟きながら、全ての攻撃を避けていく。
「いやいや。なかなかのものですよ。さて、私はそろそろあの山に行きます。退いていただけますか?」
「待て!」
「山には行かせないよ」
アシュレイはニヤニヤしながら、2人を交互に指さす。
「止めないほうが良いですよ。その方が良い未来が待ってます」
それだけ言うと、アシュレイは再び二人の攻撃を避ける。
「未来が見えるなら、これならどうだい?」
「死角から風刃ですね」
「お前より早く動けばいいんだ!」
「来ないとわかっている場所に移動するだけですね」
まるで子どもの遊びをするように、アシュレイはスルスルと避けていく。
「当たらないんですよ」
「ゼラム!」
ケメルが叫ぶとゼラムは攻撃をやめて3歩引いた。
「行かせないよ!」
ケメルを中心として、前方の半円部が風で抉れる。
耳を劈く大音量とともに、地面も、何もかもが抉れてクレーター状になった。
「わかっていれば、避けられるんですけどね」
アシュレイは抉れた地面との境目に立ち、髪型を直していた。
「風が強すぎますね。そよ風と呼ぶには、些か……」
そう言うとアシュレイは2人との距離を詰めた。
「……?」
ゼラムとケメルの姿が、そこにはなかった。
いつの間にか。
アシュレイの足元には、二人の亡骸が転がっていた。
「私は予言のアシュレイ。あなたがたの死角もわかってるんですよ」
アシュレイはふと、ストラス山へ目を向けた。
その瞬間、山の麓が爆発した。
──エーコの放った熱線が大地を、空気を、林を焼いていた。
「結末は、予言通りでしたね。さて、マール、でしたか?彼女に会いに行きましょうか」
林の火は、村も飲み込んで燃え上がった。




