第140話 趣味の中断
「あの、坊っちゃん?」
ハーレイとソルダがセトのもとにやってきて、話しかける。
「いや、違うだろ」
「え?でも、ここをこうして」
「あ、ちょっと待て……」
セトとサフラは図面を見ながら意見を交わしている。
「坊っちゃん!!」
耳元で叫ばれたセトは耳を押さえて、ハーレイたちを見た。
「なんだ?用か?」
「いい加減にしてください!!」
セトたちがアーケローンの工場に入ってから、既に半年以上が経っていた。
義手、魔動車の改良、それに加えて魔素の抽出、結晶化の研究などに没頭して時間を忘れていた。
その途中で研究のためと言い訳して、工場内にシャワーやベッドルーム、各室にエアコンなどを作り出していた。
「そろそろ報告に戻りますよ!!」
ハーレイもソルダもそろそろ出たいらしい。
「いや、まだまだ時間がかかると思うけど」
「もう十分でしょう!」
「俺はここから出たくない」
「わがまま言ってないで!!出ますよ!!」
セトはサフラと顔を見合わせた。
「食事は?」
「魔物肉」
「風呂は?」
「ある」
「寝る場所は?」
「ある」
「冷暖房は?」
「ある」
「……帰る理由ないですね」
「だろ?」
このやり取りにハーレイは怒り心頭といった様子だ。
「坊っちゃん。今日出ます。いいですね?」
「嫌なんだが」
「いいえ。必要な資料を積み込んでください。あなたはここで成人を迎えるつもりですか?」
成人。
この世界では15歳だ。
「故郷に帰って、アメリア様にも報告しないといけないでしょう?」
ソルダも続けて言う。
(確かにそれもそうか)
「だが……今日じゃなくても──」
「「今日!!出ます!!」」
こうしてセトたちは、アーケローンの工場をあとにすることになる。
セトは名残惜しそうに、魔動車の中からずっと工場を見ていた。
(アーケローンはまた来いと言っていたな。あんな家がいいなぁ)
そんなセトを乗せて、魔動車は砂漠を西に進んだ。
「……速くなったな」
「はい。以前よりかなり安定しています」
「疲れにくい」
「魔石の効率が上がりましたからね」
そんな移動の最中、目の前に動物の群れが現れる。
「停めろ」
「なんでです?」
ハーレイが停めるのを渋った。
「当たったら魔動車に傷がつく」
「それくらいの防御能力ないんですか?」
「それとこれとは別だ」
「わかりましたよ。ありゃ魔物ですねぇ」
ハーレイは運転をやめ、目の前の魔物を見ていた。
「小型だな。狐みたいだ」
「とりあえず、どいてもらいましょう」
セトとソルダが魔動車を降りた。
狐型の魔物は一匹ではなく、十数匹ほど。
かなり多いが、最初は威嚇しているだけ。
ソルダが剣を抜いた。
「俺が前に出ます」
するとサフラも降りてくる。
「私も行きます」
「サフラは後ろからでいい」
「嫌です」
サフラがグローブを嵌めた。
その指先から細い鋼線が各指ごとに伸び、ヒュンっと勢い良く狐型の魔物に向かって飛んでいく。
「よっと」
魔法で操作すると、鋼線は狐型の魔物の脚に巻き付く。
「捕まえました」
そして拳を握り、ぐいっと引く。
魔物が転倒したころに、ソルダが一閃。
もう一匹が横から飛びかかってくる。
サフラが別の鋼線を伸ばして脚ではなく胴体に絡める。
「こっちは……」
さらに力を込めると、鋼線は魔物の体に食い込み、そのまま体を切断した。
「もういっちょ!」
サフラの鋼線が魔物の首に絡み、そこにセトが魔法を撃つ。
「余裕でしたね!」
戦闘が終わり、砂漠には狐の遺骸が転がっていた。
「それ、便利だな」
セトはサフラのグローブを見た。
「あげませんよ。自慢の一品です」
「それさ、俺の左腕に……」
「嫌です!あげませんから!」
サフラはバタバタと魔動車に乗り込んだ。
「爺さんの孫、魔物とはいえ、普通に殺しますね」
「ん?ああ、そうだな。まぁいいんじゃないか?」
「それにあのグローブ。完全に獲物を狩るために練習してる動きですよ」
「まぁ、いいんじゃないか?戦力になるなら」
セトとソルダはそんな会話をしていた。
「まぁそうですけど」
「余裕だっただろう?結構な群れ相手でも」
「確かに」
セトの左腕。
感覚は確かにない。
意識的に力の調整をしなければ、握力の調整は難しい。
(でも、魔法の効率は上がったように思う)
高純度の魔石を加え、使う魔素を効率的に運用できるようになったと感じた。
(これは一つ成果だな)
セトはアーケローンの砂漠を見た。
(またそのうち帰ろう。次こそはあそこを俺の家にする)
この三日後、魔動車はアラディータに到着した。




