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生贄の英雄 セト・ウォルカの物語  作者: 下山四郎
Disc02:少年期─魔族領─
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第140話 趣味の中断



「あの、坊っちゃん?」


ハーレイとソルダがセトのもとにやってきて、話しかける。


「いや、違うだろ」

「え?でも、ここをこうして」

「あ、ちょっと待て……」


セトとサフラは図面を見ながら意見を交わしている。


「坊っちゃん!!」


耳元で叫ばれたセトは耳を押さえて、ハーレイたちを見た。


「なんだ?用か?」

「いい加減にしてください!!」


セトたちがアーケローンの工場に入ってから、既に半年以上が経っていた。

義手、魔動車の改良、それに加えて魔素の抽出、結晶化の研究などに没頭して時間を忘れていた。

その途中で研究のためと言い訳して、工場内にシャワーやベッドルーム、各室にエアコンなどを作り出していた。


「そろそろ報告に戻りますよ!!」


ハーレイもソルダもそろそろ出たいらしい。


「いや、まだまだ時間がかかると思うけど」

「もう十分でしょう!」

「俺はここから出たくない」

「わがまま言ってないで!!出ますよ!!」


セトはサフラと顔を見合わせた。


「食事は?」

「魔物肉」

「風呂は?」

「ある」

「寝る場所は?」

「ある」

「冷暖房は?」

「ある」

「……帰る理由ないですね」

「だろ?」


このやり取りにハーレイは怒り心頭といった様子だ。


「坊っちゃん。今日出ます。いいですね?」

「嫌なんだが」

「いいえ。必要な資料を積み込んでください。あなたはここで成人を迎えるつもりですか?」


成人。

この世界では15歳だ。


「故郷に帰って、アメリア様にも報告しないといけないでしょう?」


ソルダも続けて言う。


(確かにそれもそうか)


「だが……今日じゃなくても──」

「「今日!!出ます!!」」


こうしてセトたちは、アーケローンの工場をあとにすることになる。

セトは名残惜しそうに、魔動車の中からずっと工場を見ていた。


(アーケローンはまた来いと言っていたな。あんな家がいいなぁ)


そんなセトを乗せて、魔動車は砂漠を西に進んだ。


「……速くなったな」

「はい。以前よりかなり安定しています」

「疲れにくい」

「魔石の効率が上がりましたからね」


そんな移動の最中、目の前に動物の群れが現れる。


「停めろ」

「なんでです?」


ハーレイが停めるのを渋った。


「当たったら魔動車に傷がつく」

「それくらいの防御能力ないんですか?」

「それとこれとは別だ」

「わかりましたよ。ありゃ魔物ですねぇ」


ハーレイは運転をやめ、目の前の魔物を見ていた。


「小型だな。狐みたいだ」

「とりあえず、どいてもらいましょう」


セトとソルダが魔動車を降りた。

狐型の魔物は一匹ではなく、十数匹ほど。

かなり多いが、最初は威嚇しているだけ。


ソルダが剣を抜いた。


「俺が前に出ます」


するとサフラも降りてくる。


「私も行きます」

「サフラは後ろからでいい」

「嫌です」


サフラがグローブを嵌めた。

その指先から細い鋼線が各指ごとに伸び、ヒュンっと勢い良く狐型の魔物に向かって飛んでいく。


「よっと」


魔法で操作すると、鋼線は狐型の魔物の脚に巻き付く。


「捕まえました」


そして拳を握り、ぐいっと引く。

魔物が転倒したころに、ソルダが一閃。


もう一匹が横から飛びかかってくる。

サフラが別の鋼線を伸ばして脚ではなく胴体に絡める。


「こっちは……」


さらに力を込めると、鋼線は魔物の体に食い込み、そのまま体を切断した。


「もういっちょ!」


サフラの鋼線が魔物の首に絡み、そこにセトが魔法を撃つ。


「余裕でしたね!」


戦闘が終わり、砂漠には狐の遺骸が転がっていた。


「それ、便利だな」


セトはサフラのグローブを見た。


「あげませんよ。自慢の一品です」

「それさ、俺の左腕に……」

「嫌です!あげませんから!」


サフラはバタバタと魔動車に乗り込んだ。


「爺さんの孫、魔物とはいえ、普通に殺しますね」

「ん?ああ、そうだな。まぁいいんじゃないか?」

「それにあのグローブ。完全に獲物を狩るために練習してる動きですよ」

「まぁ、いいんじゃないか?戦力になるなら」


セトとソルダはそんな会話をしていた。


「まぁそうですけど」

「余裕だっただろう?結構な群れ相手でも」

「確かに」


セトの左腕。

感覚は確かにない。

意識的に力の調整をしなければ、握力の調整は難しい。


(でも、魔法の効率は上がったように思う)


高純度の魔石を加え、使う魔素を効率的に運用できるようになったと感じた。


(これは一つ成果だな)


セトはアーケローンの砂漠を見た。


(またそのうち帰ろう。次こそはあそこを俺の家にする)


この三日後、魔動車はアラディータに到着した。

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