第141話 カダルの思い出
アラディータの街では宿に泊まるだけだった。
改造された魔動車はかなり目立つ。
外観は、いわゆるダラック号に近い。
そんなセトの頭の中は魔素の結晶化でいっぱいだった。
(結局、原理がわからなかった)
魔素のみを分離する方法は、アーケローンの工場内のどの書物を読んでも不明のままだ。
(説明書きくらい残せよ。兵器なら整備不良になったらどうする)
そんなモヤモヤした夜が明け、翌日には街を去る。
そして翌日の夕暮れには魔族領の最西端の港街サラックに到着した。
「戻ってきましたねぇ」
ハーレイは感慨深そうに言う。
「とりあえず教会に顔を出しますか?」
ソルダの意見を採用して、サラックのオンボロ教会に向かう。
「御免下さい」
セトがそう声をかけて教会のドアを開ける。
石造りの建物、そのドアは二年前と変わらずギギィと傷んだ音を立てていた。
「おや?こんな時間にどなたでしょう?」
そう言って奥から出てきたのは司祭のテルンだ。
「あなたは………どちら様で?」
テルンはセトのことがわからないようだ。
「お久しぶりです。助祭のセト・ウォルカです」
その言葉にテルンが目を見開く。
「ああ!ウォルカ助祭!お久しぶりです!なんの音沙汰もないので、亡くなったと思ってました!」
テルンはセトの手を取ってブンブン振り回す。
「おや?カダルが見えませんが?」
「カダルは亡くなりました。こちらの女性がカダルの孫、サフラです」
サフラは頭を下げたが、テルンは寂しそうな表情になった。
「そうですか。彼のラメント教への入信のとき、私が洗礼をしたんですよ。もう20年近く前なんですがね……そうですか。亡くなりましたか」
テルンはサフラを見た。
「彼の住んでいた家はまだ空き家のままでしてね。見ていきますか?」
そこは街外れにある一軒の家。
相変わらず膝ほどに草が伸びている。
「改めて見ると、よくもまぁこれを家と呼んだものだ」
セトはその家を見てつい口に出した。
「まぁ、街と外の境界にある場所ですからねっと」
バタン!
テルンは乱暴にドアをこじ開ける。
「形見分け、ですかね……」
カダルの家の中は散らかり放題だった。
その上にホコリも積もっている。
カダルがセトたちの案内をしていた間、誰も中に入らなかったのだろう。
「これは……」
そこにあったのは、汽車の図面だ。
カダルとともに乗った汽車だ。
「これ、もらっていっていいか?」
セトはテルンを見た。
「いいんじゃないですか?ここにあっても忘れられるだけです」
セト、ハーレイ、ソルダ、サフラは思い思いの物を持ち出す。
「船は明日の朝発ちます。それに乗ってください」
テルンはそう言い残して去っていった。
翌日、船に乗る。
セトには特等席がある。
へネス教国からサラックに来た時に作った、専用の巨大な椅子。
船体と椅子の接続する部分にジャイロ機構を使って横揺れを強引に打ち消し、クッション性をあれからさらに高めた座面を縦揺れを無理矢理押さえ込む。
サフラはその椅子を見て、指さして大笑いした。
「バカでかい!王様みたい!よっ!セト様!キャハハハ!」
そしてそのサフラは船酔いに倒れた。
「笑ってすみませんでした」
「…………」
「その椅子、代わってください」
「嫌だ」
「じゃあ、もう一個作ってください」
「嫌だ」
この25日後、彼らはへネス教国に到着した。




