第139話 魔物食
工場内での改良は三日三晩続いた。
その間に積み込んだ食料は底を尽きた。
「なにをしてるんですか……」
ソルダはワナワナと震える拳を隠そうともせず、セトを見ていた。
「いや、楽しくて……つい」
セトはそう答えるのが精一杯だった。
まだ水はある。
だが、水だけだ。
「食糧!どうするんですか!」
ハーレイも騒いでいる。
「まあ、どうにかなるだろ」
「なりませんよ!」
そんなやり取りをしていると、セトはふと思った。
(そういえば……)
セトは頭の中でアーケローンに問いかける。
(なぁ、アーケローン)
『なんだ?』
(お前、魔物食えるの?)
『食えるぞ』
(どうやって?)
『消化する前に魔素を結晶化させるんだぞ。それで必要な魔素だけ取り込んで、いらない分はここに出すんだ』
セトは黙った。
魔物。
この世界では、魔物は基本的に食用に適さない。
肉そのものが危険というより、体内に蓄積された魔素が問題になる。
魔物を食べれば、その魔素まで体内に取り込んでしまう。
だから食べられない。
少なくとも、セトはそう考えていた。
(そんなことできるのか?)
『できるぞ』
(どうやって?)
『見たいか?お前、見たいのか?』
(見せてくれるのか?)
『いいぞ』
「……」
セトは立ち上がった。
「ちょっと行ってくる」
「どこへ?」
「アーケローンの腹の中」
「待ってください」
サフラが即座に止めた。
「今の話の流れで、どうしてそうなるんですか?」
「魔物を食べる方法を見せてもらう」
「……」
サフラが黙る。
ハーレイとソルダも黙る。
「坊っちゃん」
「ん?」
「三日寝ずに研究した結果、頭がおかしくなったんじゃないですか?」
「失礼だな」
「普通はそう思いますよ」
「でも、食料ないぞ」
「それは……」
ハーレイが言葉に詰まった。
確かにない。
「だったら、見るだけ見てみよう」
セトはそう言って歩き出した。
アーケローンの甲羅に開いた巨大な入口。
そこから内部へと続く通路を進んでいく。
「うわ……」
サフラが声を漏らした。
内部は、巨大な管のような構造になっていた。
壁面を魔石のような結晶が覆っている。
だが、それは外にあった魔石とは少し違った。
「これ……全部、生体組織ですか?」
サフラが壁に触れる。
「たぶんな」
セトも手を伸ばす。
壁は僅かに脈動していた。
「生きてる」
セトたちはさらに奥へ進んだ。
やがて、巨大な空間に出る。
そこには無数の結晶が浮かんでいた。
「……なんだ、これ」
赤、青、黒、透明。
様々な色の結晶が、空間の中をゆっくりと漂っている。
(これは、魔素の結晶か?)
セトは結晶の一つに近づいた。
その瞬間、結晶が僅かに震えた。
「魔素を……固体にしてる?」
サフラが呟く。
「どうやって?」
セトの疑問にサフラが頭を抱えた。
「理屈が全然わかりません」
「俺もわからん」
セトは結晶を眺めた。
だが、わからないなりにも一つだけ理解できる。
アーケローンは、食べたものをそのまま消化しているわけではない。
まず魔素と物質を分離する。
そして魔素を結晶化する。
その上で必要な魔素だけを吸収する。
残ったものを排出する。
「つまり……」
セトは呟いた。
「魔素を分離できれば、魔物だって食える」
セトの目が輝いた。
「サフラ」
「はい」
「これ、義手に使えないか?」
「なんでそうなるんですか?」
「魔素を結晶化できるなら、魔石を使わなくても魔素を直接エネルギーとして取り出せるんじゃないか?」
「……」
サフラは考え込んだ。
「理論としては……可能性があります」
「だろ?」
「でも、魔素を結晶化する仕組みがわかりません」
「そこを研究する」
「また始まった……」
ハーレイが頭を抱えた。
その時だった。
グオオオオオ……。
巨大な音が響いた。
「……」
四人が固まる。
「今の音、何です?」
ソルダが聞く。
セトは少し考えた。
「腹の音じゃないか?」
「えぇ!?こいつも腹減るのかよ!」
ハーレイが叫ぶ。
「じゃあ、何か食べるかもな。一旦戻ろう」
セトたちは一度工場に戻る。
『今から砂漠に出てくる』
アーケローンの身体が僅かに動いた。
(待て)
セトが止める。
『なんだ?』
(食べる前に、一匹だけ俺たちにくれないか?)
『いいぞ』
「よし」
セトは拳を握った。
「今日の夕飯が決まった」
「決まってませんよ!」
ハーレイの叫び声が、工場内に響いた。




