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生贄の英雄 セト・ウォルカの物語  作者: 下山四郎
Disc02:少年期─魔族領─
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第137話 アーケローン



「クソ、なんでこれ外してたんだ?」


セトはそう言いながら方位指針を取り付けていた。

太陽と星の位置から方角をある程度割り出し、タイヤの軸に連結する形で取り付けられた方位指針。


「改良のときか……忘れてた」


改良を重ねる度に邪魔になり、それを取り外してしまっていた。

これがなければ方角はわからない。

一日野宿して方位をある程度割り出し、改めて取り付ける。


「これで行けるだろ」


作り直した方位指針を真西に向ける。


「合ってるんですか?」


ハーレイが魔動車の中から声をかける。


「たぶんな。………よし、出発だ」


そのまま道なき道を進む。

砂の上だからスピードは出せない。


その翌日、代わり映えのない砂の景色に、一つの違いがあった。


「ありゃなんです?」


気がついたのはソルダだ。


丘のように盛り上がった砂丘。

その上に建物が見えた。


「蜃気楼?」


セトは呟くが、蜃気楼の原理を考えればあり得ない。


「遠くのものが近く見える現象だろう?蜃気楼ではないだろうな」


すぐに蜃気楼ではないと考えた。


「じゃ、ありゃなんです?」


ハーレイがそう言った瞬間、魔動車がズン!と沈んだ。


「わわ!ちょっと!なんか!沈んでる!」


サフラが慌ててドアを開けて外に出ようとするが、外の様子を見てすぐにドアを閉めた。


「地面が沈んでます!」


そう叫んだ瞬間、魔動車の前に巨大な亀の顔が現れた。


『なぁ、お前………懐かしいなぁ』


セトの頭に直接話しかけるように、音声が響いた。


「なんだ?」


セトは不思議そうだが、他の三人は何が起こっているのかわからない。


「坊っちゃん!流砂だ!」

「アクセル踏んで!」

「食われる!」


三人が口々に騒いでいるが、セトの頭に聞こえる音声は止まらない。


『なぁ、お前、英雄たちと一緒にいたのか?』


(これは、この亀か?)


セトがそう思った瞬間、亀がセトをしっかりと見た。


『オイラはアーケローン。お前、英雄の知り合いか?』


どうやら頭の中に直接話しかけているようだ。


(鏡像魔法の応用か?)

『そうだ。お前は英雄の知り合いか?』

(知り合いじゃないな)

『でも、お前の頭の中には英雄と過ごした記憶があるぞ。プヨプヨ漂う記憶がある』


山崎が亜空間にいた頃の記憶だろうか?


(それは俺であって俺じゃないな)

『そうか。まぁいい。懐かしかっただけだ』

(お前はここで何をしてる?)

『ここに来る奴を食ってる』

(あの建物は?)

『あれはオイラの甲羅だ。見ていくか?』

(いいのか?)

『いいぞ。懐かしくていい気分なんだ』


セトは少し考える。

目の前にいる巨大な亀。

いや、アーケローンというらしい。

その甲羅の上には、先ほど見えた建物がある。


「……行ってみるか」

「坊っちゃん!?」


ハーレイが叫ぶ。


「何を言ってるんですか!」

「こいつ、俺たちを食わないって」

「誰がそんなこと言ったんです!?」

「こいつ」


セトはアーケローンを指差す。

三人が顔を見合わせる。


「……何か聞こえた?」

「いや」

「私も何も」

「だよなぁ……」


セトは少し考えた。


「こいつ、俺に直接話しかけてるみたいだ」

「直接?」


サフラが首を傾げる。


「頭の中に声が聞こえる。鏡像魔法だろうな」


セトはアーケローンを見る。


『こいつらには聞こえないのか?』

(聞こえないぞ)

『そういうもんか』

(そういうもんだ)


随分と適当な会話だった。


「まあ、とりあえず大丈夫そうだ」

「何を根拠に!?」


ハーレイが叫ぶ。


「食わないって言ってる」

「それを信じるんですか!?」

「今のところは」


セトは魔動車から降りた。


「坊っちゃん!」


ソルダが慌てて追いかける。


「大丈夫だって」

「だから何が大丈夫なんですか!」

「こいつが案内してくれるって」

「こいつって……」


ソルダは巨大な頭を見上げた。


「……本当に話してるんですか?」

「話してる」

「信じられない……」

「俺も半分くらいしか信じてない」

『お前、面白い奴だな』


アーケローンの声が響く。

セトは少し笑った。


「じゃあ、案内してくれ」

『任せろ』


アーケローンが身体を動かした。

巨大な亀。

見上げれば首が痛くなりそうなほどにデカい頭。

それを地面に潜らせ、その頭の上にセトたちを乗せる。


グイッと持ち上げた頭の上に乗り、甲羅の上まで連れて行かれる。


「高ぇ……」


ソルダは下を見て感嘆の声を漏らした。


「落ちませんよね?落とされませんよね?」


サフラはアーケローンの頭にしがみついている。


「え?ヤバいんですけど。あの建物、無茶苦茶デカいんですけど!」


ハーレイが指差した先の建物は確かに大きい。

小さな村よりも広い範囲に作られているようにも思える。


「あれは……何のための建物なんだ?」


セトはその建物の規模に圧倒されていた。


(あれは、なんだ?)

『見ればわかる』


アーケローンの首が、建物の入り口についた。

城ではないが、民家ではない。

そもそも人が住まうために建てたものでもなさそうだ。


「デケェ……」


そう呟きながら、セトたちは建物の中に入っていった。

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