第135話 強制退去命令
第135話 強制退去命令
魔王ハビルタンからの召喚状。
内容は簡単なもの。
──明朝に御前にて待て。
「これって来いってことですよねぇ?」
ハーレイは召喚状を手に取り、ヒラヒラとさせながら言った。
「間違いなくそうだろうな」
ソルダもそれに同意する。
「来いってのはわかる。だが、明朝ってのがわからん。いつ行けばいいんだ?」
セトだけは、すっとぼけた事を言っていた。
そこにフェネルが釘を刺す。
「陛下が明朝と言うのであれば、日の出とともに御前に待っているのが普通です」
その言葉にセト、ハーレイ、ソルダの三人が驚愕の表情を浮かべる。
「早すぎる……」
「起きれるか……」
「いっそのこと今晩寝ねずに待つか?」
三人は口々にどうするか話している。
「バックレるか……」
そのセトの言葉をフェネルは否定する。
「陛下直々の命令をそのようにしては、あなたの命が危ないですよ」
確かにプライドを傷つけるのはマズイ。
「じゃあ早めに寝よう」
「そうしましょう」
「仕方ないか」
そう言って諦めた三人に、フェネルが一言言う。
「まぁ、明日は私も同行しますから。起こしに来ますよ」
そして翌朝。
「……眠い」
「眠いですねぇ……」
「死ぬほど眠い」
セト、ハーレイ、ソルダの三人は、死んだ魚のような目をしながら謁見の間へ向かっていた。
「だから言ったでしょう。早く寝ればいいと」
「お前はなんで平気なんだよ……」
「私は慣れてますから」
「そうかよ……」
フェネルだけはいつも通りだった。
やがて謁見の間へ到着する。
ハビルタンを跪いて待ち、やがて声がかかる。
「表を上げよ」
そう言われてセトは頭を上げる。
魔王ハビルタンは相変わらず無表情だ。
「貴様ら、いつまでこの国にいるつもりだ?」
開口一番、ハビルタンから問われる。
「いつまで、と申されましても、義手の調整もございますので──」
「フェネル」
セトの言葉を遮るように、ハビルタンはフェネルを呼んだ。
「この腕、未だ調整が必要か?」
「はい。腕は動きますが、何分力加減に問題がありまして──」
「セト・ウォルカ」
ハビルタンはフェネルの言葉も遮る。
呼ばれたセトは「はっ」と短く返事をした。
「出ていけ」
ハビルタンは短く言う。
さらに続けて、
「もはやこの国に用事はあるまい。出ていけ」
その言葉にセトはすかさず返す。
「それでは、本日をもちまして退去致します。ただし、先ほどフェネル殿よりご指摘がございました調整に懸念がございます。技士として研究所助手のサフラ殿をつけていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」
そのセトの言葉に、ハビルタンは一瞬だけ眉を上げた。
「ならん」
それがハビルタンの回答だった。
「なぜ貴様の腕ごときに助手とはいえ大事な技術員を出さねばならん。どういうつもりだ?」
カダルとの約束もある。
サフラはこの国から何としても連れ出したい。
「では、魔動車。こちらの図面を差し出します。これにて交換、というのはいかがでしょうか?」
ハビルタンの口元がほんの少し動いたように見えた。
「ほぉ?図面とな?見せてみろ」
セトは懐から図面を取り出す。
「随分と用意がいいな?」
「はい。必要になるだろうと思っていました」
「ふん。賢しい小僧が」
謁見の間にいた補佐官らしき人物がセトから図面を受け取り、ハビルタンに手渡す。
「なぜ、これを貴様が持っている?」
「魔動車は私とカダルが作ったものですので」
「………そうか」
ハビルタンはしばらく図面を眺めていた。
魔動車。
この国にも存在する技術ではある。
だが、セトたちが使っているものは、既存のものとは少し違う。
小型化され、魔力効率も高い。
「これを渡す代わりに、小娘をつけろと?」
「はい」
セトは頷いた。
「サフラは技士として、義手の調整にも協力できます。私としても、今後の旅には必要な人材です」
「……大きく出たな」
「ダメですか?」
ハビルタンは頬杖をついて答えた。
「いいだろう」
その言葉にセトは頭を下げた。
「カダルの遺作だ。それに免じて貴様の要求を飲んでやる」
セトは内心断られると思っていた。
そのため、これまで魔動車をさらに改良して最高時速も上げた。
魔素効率も上げた。
いつでも逃げ出せるために。
「ありがとうございます」
そのセトの頭にハビルタンから声がかかる。
「だが、退去は覆らぬ。疾く去ね」
ハビルタンが退室した後、セトも出ていく。
荷造りをさっさとまとめ、サフラの到着を待って街をあとにする。
「いろいろありましたねぇ」
夜の帳が落ちた街を魔動車が駆ける。
ハーレイは窓から外を眺めながら、少し名残惜しそうに呟いた。
「また来るんですかね?」
ソルダも同じようだ。
「私の故郷なんですよ!どうして二度と来ないような話になってるんですか!?」
その横でサフラが騒いでいる。
「ハビルタンに会わないなら、また来たいな」
セトはそう言って、魔動車を運転していた。




