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生贄の英雄 セト・ウォルカの物語  作者: 下山四郎
Disc02:少年期─魔族領─
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第133話 死者の恩



セトが目を覚ました翌日、早速魔王に呼び出された。

だが、セトの体は万全ではない。

だだっ広い王宮を歩くのは、体力的に相当きつい。


「ソルダ、おんぶしてくれ」


セトは恥を忍んでソルダに負ぶさった。

その様子を見て、ハーレイがクスクスと笑っている。


(あとで見とけよ)


セトは静かに復讐を誓った。


謁見の間につくと、セトは降ろされた。

それまでの案内についた全員に好奇の目で見られたセトの顔は赤い。


(もっとちゃんと回復してから呼べよ)


セトの内心は不満しかないが、今の表情のまま会うわけにも行かない。


バチンッと右手で頬を張り、気持ちを切り替えて謁見の間に入る。


前回来たときと同じように跪いて、ハビルタンの登場を待った。


「表を上げよ」


しばらくして頭上からハビルタンの声が響く。

セトは頭を上げ、真っ直ぐにハビルタンを見た。


「セト・ウォルカ。貴様、よくもカダルを殺したな」


ハビルタンは開口一番に、セトの目を見て言う。


このとき、セトは鏡像魔法などの対策を何もしていない。

体力的に、そんな対策ができるほど回復していない。

それに体を乗っ取るにしても、片腕のない体に興味を示すとも思えなかった。


「申し開きのしようもございません」


セトはたった一言、それだけ言うと再び頭を下げた。


「…………ほぉ?なんの言い分もないと?」

「はい。何一つ。全ては私が至らなかったがために起きたことにございます」


セトは頭を上げずに答える。


「カダルはかつてこの国の主席技術員だった。最も優れた技術員に与える称号でもある」


ハビルタンの表情は見えないが、声の様子はそれまでと変わらず平坦だ。


「それを殺した罪は重いぞ?」


セトは頭を上げず、ただ黙って聞いていた。

ここで下手に答えて言質を与えるのもマズイ。


謁見の間は沈黙に支配される。

後ろにいる従者二人の鼓動まで聞こえそうなほどに静まり返っていた。


「だが、フェネルから貴様の失った腕の義手の製作について申請があった」


沈黙を破ったのはハビルタンだった。


「カダルは死んだ。しかし他の技術員に犠牲は出ていない。その恩だそうだ」


カツカツと人の歩く音がする。

そして、ガサッという紙を開くような音が続いた。


「研究所内一部設備は破損したものの、研究そのものの維持、継続は可能。さらに技術員並びに研究員、その他助手に至るまで無傷で避難。被害状況は、研究室56室のうち、小破2室、中破3室、大破1室の計6室。研究材料の破損は毒禍のニトラのみ」


セトは頭を下げていてわからないが、ハビルタン以外の誰かが被害状況を読み上げている。


「人的被害は重傷者としてウォルカ助祭。その従者、ソルダ侍祭は回復状況から見て軽傷。死亡者は助祭の案内役のカダル一名のみ」


その人物はカダルを技術員ではなく、セトの案内役と言った。


「これが被害状況だ」


ハビルタンは短く言った。

そして、一呼吸小さく息を吐いた。


「セト・ウォルカ。死んだのは貴様の案内役だ。我が国民に被害はない」


さらに続ける。


「ならば、貴様に罪を問う理由もない」


(………まだ気を抜いたらダメだ。ここはおそらく一番警戒するべきところだ)


ハビルタンの言葉は、セトに危害を及ぼすものではないように思えた。

だが、そういう時こそ警戒を緩めてはいけない。


「貴様らには治療院の利用を許可する。義手は研究所と連携して作るがいい」


(治療院……おそらく監視されているだろうな)


「国を守ったのはカダルだ。貴様らではない。余はそう評価した。忘れるな」


立ち上がった音のあと、足音が近づいてくる。

やがて頭を下げたセトの視界に、影がかかる。


「カダルの死に感謝しろ。それがなければ貴様らは死罪だ」


耳元でハビルタンが囁いた。


徐々に足音は遠ざかる。

冷や汗、などというものではない。

息をつくのも忘れるほどの緊張感があった。


謁見の間を後にして、再びホテルに戻る。


「いや、怖すぎでしょ」


ハーレイは部屋に入るなり、そう言って椅子に深く腰を下ろした。


「治療院、と言ったか?」


セトはそこがどういう場所か知らない。


「まぁ診療施設の整ったところじゃないですか?とりあえず体力の回復と義手の製作を急ぎでやるしかないですね」


義手か……

セトは失った左腕を見る。


「どれくらいで出来でしょうね?その間この国に滞在することになるでしょう?」


ソルダはどれくらいこの国にいるのか気になるらしい。


「どうだろうな?」


この世界にも義手や義足はある。

だが、木材などを使った簡易なものだ。


「気長に待つしかないか」


セトはベッドに横になった。


義手はこの半年後に完成する。

そしてリハビリにはさらに半年を要した。


この間にセトは13歳になり、14歳になる年を迎えていた。


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