第132話 密談
バチバチバチバチと音を立ててケーブルは暴れ回る。
その先から伸びる雷撃はカダルの体から、カーチェスにも伝わった。
二人の筋肉は痙攣して強張る。
肉の焼けるような匂いが充満し、セトとハーレイは雷撃を止めた。
ドサッ──
カーチェスの腕から、カダルの体が抜け落ちる。
「へへへ、こいつぁ参った」
カーチェスは生きていた。
カダルの身体を介して電流を浴びたことで重傷は負ったはずだ。
だが、そのために電流は分散して致命傷には至らなかった。
「あーあ、ニトラも泡吹いてら。こりゃ死ぬな」
カーチェスはニトラの方を見て言う。
「こうなりゃ、もうしゃーねぇな」
カーチェスは満身創痍のセトたちには目もくれず、自身で空けた穴の方に歩いていく。
「へへへ、ここは逃げるが勝ちだぜぃ!」
その言葉を残してカーチェスは消えた。
セトも意識は朦朧としている。
ソルダも立てそうにない。
動けるのはハーレイだけだ。
「坊っちゃん!」
ハーレイは引き続きセトの治療を行おうとした。
「ハーレイ、カダルを先に診ろ」
セトのその言葉にハーレイは首を振る。
「申し訳ありませんがね、生命活動はもう終わる。手遅れだ。それなら坊っちゃんが優先だ」
ハーレイは涙でいっぱいの目でセトを見た。
「坊っちゃん。次にソルダ。それが優先順位だ」
静かになった部屋で、ハーレイによる処置が行われた。
しばらくして、バタバタと研究員たちが警備を連れて戻ってきた。
「父さん!!」
どうやらフェネルもいるらしい。
セトの意識はそこで途切れた。
次に目を覚ましたのは、ホテルの部屋だった。
どれくらい寝ていたのかは不明だ。
「お、坊っちゃん!」
横についていたソルダが、セトが目を開けたことに気がついた。
「ソルダ、お前、もう大丈夫なのか?」
「もちろん!頑丈なもんで!」
ソルダはまだところどころ腫れた体で、アピールのポーズを取っている。
「どれくらい寝ていた?」
「三日ほどです。一日目は熱が下がらなくて大変だったんですよ」
三日か。
そう思ったとき、セトはふとカダルを思い出した。
「カダルは、どうなった?」
そのセトの問いに、ソルダは言いにくそうに、言葉を詰まらせながら話した。
「爺さんは、死にました。手遅れ、とハーレイが言ってました」
セトは一言、「そうか」とだけ答えた。
バタン!
その時、ハーレイが部屋に入ってきた。
「お!おお!坊っちゃん!お目覚めですか!?」
ハーレイはセトのベッドに駆け寄ると、すぐに診察を始めた。
「いやいやいやいや。よかったよかった。熱も下がってますからね!感染症とかは大丈夫だと思いますけど、もう少し安静にして様子見てくださいな」
セトは左腕に激しい痛みを覚えた。
うずくまるように体を丸め、左腕を押さえようとする。
──ない。
左腕は既にない。
「左腕、ないんだな」
その言葉に、ハーレイが少し悲しそうに眉を下げた。
「はい。すみませんが、切り落としたあと、再生を試みましたが救えませんでした」
「じゃあ、なぜこんなに痛い?」
「幻肢痛でしょう」
左腕がない。
「そうか。なくなったか……」
セトはしばらくなくなった左腕を眺めていた。
「ニトラとカーチェスは?」
セトは話題を変えるために、九従者のその後を確認する。
「ニトラは死亡しました。遺骸は研究所内に。俺が死亡を確認してます」
ハーレイが答える。
「カーチェスは逃げました。足取りは掴めていません」
次はソルダが答えた。
「それと今回の件について、魔王陛下が直接お話をお聞きになりたいとのことで、目が覚め次第ということで召喚状が届いてます」
ソルダがセトに、その召喚状を渡した。
「目を覚まし次第か。他にバレてないなら、気が済むまで目覚めてないことにしてくれないか?」
そうセトが言った瞬間に、ドアの向こうで声がした。
「それは無理ですよ。僕が見ちゃいましたからね」
そこにいたのは、フェネルだった。
「実はちょっとお話したいことがありましてね」
フェネルはそう言うと、部屋に入るなりセトのベッドに腰掛けた。
「父のことは、残念でした。本当に。それと皆さんに良くしてもらったみたいで、感謝してます」
フェネルは頭を下げる。
カダルは洗脳されている、と言っていたが、本当にそうなのか疑問に思うほどだ。
「実はですね、僕はサフラを外に出したいんですよ」
カダルはセトに、孫を外に連れ出してくれと頼んだ。
今度はフェネルが同じことを言う。
「どういうことだ?」
セトはフェネルに問う。
「陛下が兄の身体を使っているのは知ってます。でもね、いろんな感情を隠して、僕も今の主席技術員の立場を得た。サフラを連れ出す目眩ましとしてね」
「それで?」
「サフラは研究所の助手です。これから研究所であなたの義手を造る。まぁ、陛下の許可は必要になりますが、私の立場を使います。その整備技士として、サフラをあなたにつけて外に出す。いかがですか?」
フェネルの目は、しっかりとセトを見ていた。




