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生贄の英雄 セト・ウォルカの物語  作者: 下山四郎
Disc02:少年期─魔族領─
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第130話 毒禍のニトラ



ニトラは獣人だ。

カスティアに奴隷として使役されていた。

カスティアに買われたとき、既にカーチェスというカモシカの獣人が奴隷として使われていた。


ああ、なぜ獣人などという不遇な種族に生まれ落ちたのか。

ニトラはその運命を呪った。


だが、カーチェスは違った。

ひたすらに明るかった。


獣人の中には、その改造の違いによって人と同じように喋れる者から、ベースになった動物のような鳴き声しか出せない者までいる。

それは人間によってどこまで改造されているかによって変わる。


「お前たちは人と同じように喋れるのだろう?だから買った。珍しい種族だしな」


カスティア様はそれだけを言った。

カスティア様は優しいというのとは違った。

食事も含めて、生活は人間と同じようにしてもらった。

恩を感じた。


だが、決して私たちを人とは呼ばなかった。

そして、それは四英雄と呼ばれ、封印されているときも変わらなかった。


確かに恩はある。

だが、私は、人として生きてみたかった。


──ニトラの目の前に広がる光景。

それはカーチェスがいつも通り喧嘩している光景。

自分は見たこともない場所で、冷たい液体の中にいる。


(ここはどこだ?)


液体は徐々に減ってきている。


(私は、負けた。捕らえられたのか?)


封印から出てきた時のことを思い出していた。


(では、カーチェスは、私を助けに来たのか?)


ドン!


ニトラはカプセルを内側から叩いた。

既にヒビが入っている。


(これなら、私でもいける)


ニトラは蝙蝠特有の超音波で、減っていく液体を振動させる。


バァン!


液体の高振動によって、カプセルは砕け散った。

だが、体力はまだ戻っていない。


ドサリとニトラは倒れ込む。

目の前にいるのはセトだ。


(まぁ、こいつでもいいか……)


ニトラの能力は毒。

本来なら鏡像魔法で、その個体に最も効果の高い毒を調べ、体内で作り出す。


(動けないようだし、これならただ腐らせるだけでいい)


ニトラの爪が、セトの左腕を貫いた。


「坊っちゃん!」


ハーレイがセトの元に駆け寄る。


「何してんだ!テメェは!」


走ってきた勢いのまま、ハーレイはニトラの顔を蹴り上げた。


「坊っちゃん!坊っちゃん!」


ハーレイはすぐにセトに声をかけながら治療に取り掛かる。


(ダメだ!クソ!浸潤が早すぎる!)


セトの左腕上腕について傷からドス黒い変色が広がっていく。


(これは……壊死か!)


「テメェ!坊っちゃんに何をした!」


ニトラは何も答えない。

ただ、自分の爪を見つめていた。


(……おかしい)


確かに毒は入った。 しかも、相手の身体に合わせて作った。

ならば、もう動けないはずだった。

なのに。


「……まだ、生きている?」


ニトラが呟く。


「当たり前だろうが!治してんだよ!」

「くくく……そうか、治癒師か。間に合わないよ。お前の治癒より早く組織は死んでいく」


ニトラは力なく笑いながら答えた。


「おい……」


その時、セトが目を覚ました。


「坊っちゃん!気がついたか!」

「……ハーレイ」

「ああ、わかってます!すぐ治す!」

「切り落とせ」

「え?」


ハーレイが目を見開いてセトの顔を見た。


「左腕を切り落とせ」

「でも!」

「いいからやれ。やってくれ」


ハーレイはそれ以上何も言わなかった。

壊死が進む前にやるしかない。


「全部は今やるな。時間がない。止血は俺が焼灼する」

「バカ!何言ってるんです!」

「お前はニトラをどうにかしろ」


ハーレイはニトラを見た。

かなり息苦しそうだ。

まだ体を動かせるほどに回復していないのだろう。


「毒を作るということは、耐性や処理する仕組みがある。あとはわかるだろ?」


セトはハーレイを見た。


「クソが!」


ハーレイはまずはセトの腕の処置を始める。

切断だ。

皮膚、筋肉、神経系、血管、そして骨。

素人の焼灼などという無茶苦茶に耐えられるよう、できる限り細かく、手早く処置と魔法を組み合わせる。


「くくく」


後ろで倒れたままのニトラが笑う。


「待ってろ。今すぐテメェは殺す」


ハーレイがニトラを見た。

セトの左腕は肩から5cmほどを残して切り落とされていた。


「テメェには抗体があるんだろ?」


ハーレイはニトラの腹に手を置いた。

爪で傷つけられないよう、注意深く観察する。


「本来はこんな使い方はしないんだ」


ハーレイはニトラに治癒魔法を使った。

だが、それは相手を治療するためじゃない。


「免疫暴走だ。苦しんで死ね」


ニトラの弱っている体の中で、免疫細胞が際限なく暴れ回る。

それは高熱から始まり、多臓器不全に至る。


「サイトカインストーム。お前はお前自身の免疫で死ぬ」


ハーレイはそれだけ言うと、セトの処置に戻った。


その頃、カーチェスとソルダの殴り合いはまだ続いていた。


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