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生贄の英雄 セト・ウォルカの物語  作者: 下山四郎
Disc02:少年期─魔族領─
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第128話 迷妄のカンセン



翌朝、セトたちは研究所に向かっていた。

メンバーはセト、ハーレイ、ソルダ、カダルの四人。


カダルは孫を連れ出してくれと言った。

そして、自身がこの国に残る決断をした。


王宮にはすぐに、カダルが残ることが伝えられた。

そしてカダルがこの国にいる間だけ、案内人として随行することも許可が出た。


「研究所は山奥にある。市街地とは離した場所にある」


カダルはそれだけ言うと、黙ってしまった。

魔動車の中は重苦しい雰囲気だ。

今日はソルダも馬を置いて、魔動車に乗り込んでいる。


研究所の入り口では、数人の研究員らしき人々が立っていた。


魔動車を降りた四人を彼らはマジマジと見る。


「カダル様、お待ちしておりました」


何人かがカダルに頭を下げた。

だが、カダルは居心地悪そうに腕を組んでいる。


その中から、一人の若い女性が歩み出る。


「本日、ご案内の役を仰せつかるサフラです。よろしくお願いします」


サフラと名乗った女性は、セトたちと握手をしていく。

そしてカダルの前で立ち止まった。


「おじいちゃん、ですよね?はじめまして。サフラです」

「……おう」


カダルは短く返事をした。

だが、どうやらカダルも満更でもないらしい。

少し耳が赤くなっているのを、ハーレイはバッチリ見ていた。


「それでは、ご案内いたします。ただ、本日のご用向きは迷妄のカンセンとのことでしたので、施設内での自由な行動はお控えください」


サフラは研究所の入り口を開くと、セトたちを招き入れた。


そこからは、一直線にカンセンが保管されている部屋に向かうのだろう。

数あるドアに目も向けず、白い廊下をスタスタと進んでいく。


(かなりデカいぞ。他の部屋には何があるんだ?)


セトは興味を引かれたが、ハビルタンにカンセンだけだと伝えた手前、その感情を押し殺すしかない。


「では、こちらが九従者の研究を行なっている部屋です」


サフラはそう言って一つの部屋のドアを開けた。

その部屋のガラス張りの向こうに、カプセルが二つ並んでいた。


「ようこそ、皆さん。サフラ、案内ありがとう。ここからは私が引き継ぐよ」


そう声をかけてきたのは、昨日カダルとモメていた男、フェネルだった。


「やぁ、父さん。戻ってきてくれるんだよね?ありがとう」


フェネルはカダルと握手をしようとするが、カダルは無視した。


「まぁ、いいか。これからは時間もあるからね」


そのカダルの態度にフェネルは苦笑いを浮かべる。


「えー、カンセンについて、だったよね?」


気を取り直したようにフェネルはセトに話しかけた。


「はい。カンセンの生死の確認をしに参りました」

「うん。カンセンはね、正面の右のカプセル。あれは死んでる」


フェネルは右のカプセルを指さした。

そのカプセルの中では、額に四本の角が生えた男性が液体に浮かんでいた。

体はあちこち傷だらけで、脇腹はえぐれ、背骨らしき骨が見える。

左腕は肘から下がなく、右腕はカマキリの鎌のような形状だ。


「酸素も魔素も供給されてない。防腐処理のための薬液に浸かってるだけなんだ」

「防腐処理?ですか?」

「そう。生命活動が停止してるからね。腐ったら研究できないでしょ?」


フェネルは何でもないことのように言う。


「カンセンの能力は迷妄。報告によると、視野の一部を書き換えて誤認させる能力ってあるね」

「その報告者、俺も読めますか?」

「ダメだよ、君にその権限はないんだ。僕が説明するのを聞いててね」


そう言ってフェネルは説明を始める。


カンセンの能力により、味方をカンセンと誤認した兵士が同士討ちを始め、味方の陣地を誤認した魔法士が味方に魔法を打ち込み、その戦闘は地獄絵図のようになった。

祭壇の御子は役に立たず、結局味方を巻き込む形で範囲魔法を連発し、味方諸共カンセンを討つに至った。


「こういうことらしいね」


(なるほど、それでヤサクルス湾の小島は祭壇というか、小島そのものに戦闘の跡があったのか)


「で、その遺骸を運んできて、それがこちらということですね?」

「そうなるね」


セトはガラスの前に立ち、カンセンの遺骸を見る。

確かにいたる所が傷だらけだ。

抉れて骨が見えている箇所もある。


「なるほど」


セトは一言呟く。


「これでご理解いただけましたか?」


フェネルはセトの顔を覗き込んだ。


「はい。これで報告を上げられます」

「結構。それは良かった」


フェネルは満足気に頷く。


「隣のカプセルは?」


セトの言葉に全員が左のカプセルを見る。


「ああ、あれは毒禍のニトラ。あっちは生きてますよ。興味あります?」

「ええ。九従者ですか?」

「はい。我が国の山に堕ちましたので、生け捕りにしてこうして研究しております」


別の従者もここにいる。

それはそれで聞いておく必要がありそうだ。


「そちらについても、お話を聞くことは可能ですか?」

「研究内容は話せませんよ?」

「いえ、どのような能力であるとか、戦闘の様子についてです」

「それならば、まぁ、詳細は話せませんが、いいですか?」

「かまいません」


そうしてフェネルはニトラについても簡単に説明する。

毒を体の中で生成する能力。

それは特定の個人に特化したものも作れる。

これによって戦場を混乱させて逃げようとしたが、生け捕りにしたとのことだった。


「なるほど。体が……どうやら、羽根があるように見えますが?」


セトはニトラのカプセルを見る。

女性の身体。

腕から脇腹にかけて薄い膜のような羽根のようなものが見える。


「ああ、彼女は獣人です。蝙蝠の獣人。それがニトラです」


(獣人の……従者?)


セトの知っている情報は、従者は全員一般人だったというもの。

獣人という話は聞いていなかった。


「あの──」


ズガァァン!


セトがフェネルに話しかけようとしたとき、部屋の壁が爆発したように砕け散った。


「はいはぁい!俺様はカーチェス!ニトラを返してもらうぜぃ!」


その爆発によってできた穴から、一人の獣人が中に入ってきた。


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