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生贄の英雄 セト・ウォルカの物語  作者: 下山四郎
Disc02:少年期─魔族領─
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第127話 カダルの決断



セトは王宮から出てくるとき、ハビルタンに言われた期限を思い出していた。


『明日の朝だ。太陽が昇るまでに回答を寄越せ。それを過ぎれば、貴様らは我が国の敵とみなす』


つまり国賊として標的にされる。

今逃げても明日の朝までに国境を出るのは無理だ。


(どう足掻いてもカダルを差し出すしかないか)


カダルを含めてたった四人。

その人数でこの国と戦争をしても勝ち目はない。


(始めからカダルを差し出させる流れだったってことか)


王宮の外に出て、魔動車に向かう。

そこにはカダルと話す一人の男性がいた。


「なぁ!父さん!戻ってこいよ!」

「うるせぇ!今のテメェが何言っても意味がねぇんだよ!」

「言ってることの意味がわからないよ!」

「じゃ向こう行け!テメェじゃ話になんねぇ!」


カダルのことを「父さん」と呼んでいる。

息子だろうか。


「父さん!なんでなんだよ!僕はやっとの思いで主席に任命されたんだ!父さんが戻ってきてくれたら、こんな心強いことないんだ!」

「バカ野郎!知るか!そんなこと!失せろ!」


まるで蹴り出すようにカダルはその男性を追い払った。


その様子を遠巻きに見ていたセトたちは、男性が去ったのを見てカダルに話しかけた。


「なぁ?あれは息子さんか?」


セトが後ろから話しかけたことで、カダルは少し驚いたようだ。


「あ?ああ、ありゃ息子だ。フェネルってんだがな、ありゃダメだ」


カダルは寂しそうな表情だ。


「事情はわからないが、こっちも面倒な話になった」

「ああ、そうか。とりあえず戻るか」


ホテルに戻り、カダルの部屋に再び全員が集合する。


「面倒な話ってのは、なんだ?」


部屋に入るなり、カダルはセトに問いかけた。


「お前をこの国に置いていくのが条件だそうだ」

「あ゛あ?」

「回答期限は明日の日の出まで。それを過ぎれば、全員国賊扱いだそうだ」


その言葉にカダルは眉を上げる。


「バカにしやがって」

「そうは言うがな、今から国境を越えるのは無理だ。期限までに回答しないわけにもいかない」


しばらく沈黙が流れた。

その場の雰囲気を変えるため、ハーレイがおどけてみせる。


「爺さんよ、さっきの男は息子だろ?もうちょっと優しそうにはできないのかねぇ?」


その言葉にカダルがハーレイを睨みつける。


「テメェ………なんの事情も知らねぇクセに……」


明らかに怒りの表情のカダルを、ソルダが宥めようとした。


「いや、バカが聞いちゃいけないこと聞いて悪かった。確かに家庭の話は知らないことだ。悪かった」


それでもカダルの表情は変わらない。

だが、「チッ」と舌打ちをして、カダルは話し出す。


「あいつは洗脳されてるんだ。ハビルタンにな」


洗脳。

確かに鏡像魔法を応用すれば可能だ。

九従者たちが使う手段と似ている。


「あいつの技術員としての腕は間違いねぇ。俺の息子だ。だが、ハビルタンにベッタリなんだよ」


その様子にセトが疑問に思ったことを言う。


「なぁ?お前はなんで、この国を出たんだ?」


ハーレイも、ソルダも、カダルを見ている。

カダルの表情は怒りとも悲しみとも取れる、複雑なものに変わった。


「お前たちはハビルタンを見たか?ありゃ俺の息子の体だ」


セトが思い返すハビルタンは、確かにカダルに似ていた。


「俺は息子をハビルタンに差し出した。奴は4000年間、他人の体を乗っ取って生きてきた。そういう奴なんだ」


かつて人々は転写魔法により不死を実現していた。

それは巫女の伝承にも語られる。

それが今尚続いている。

そういうことなのだろう。


「あれはな、俺の息子、さっきのフェネルの兄、ペルハの体だ。それがわかっていてもハビルタンにベッタリなんだ。わかるだろ?」


恐怖でもなく、嫌悪でもなく、従属できる。

心底は不明だが、その感情を常に隠し続けるのは難しい。


「だから洗脳だと?」

「そうだ。フェネルは俺がこの国を出るときについてこなかった。ハビルタンを尊敬してるんだと。情けない話だ」


カダルは一拍置いて、さらに続けた。


「俺が息子を差し出して、俺が国を捨てて、今度はまた俺だけ戻ってこいって話だ。笑えるだろ」


誰も答えられない。


「だがな、俺にも孫ができたらしい。さっきフェネルがな、娘がどうとか言いやがった。名前はサフラってんだそうだ」


カダルはそこで言葉を止めた。


「この国を出て20年以上だ。そりゃいろんなもんが変わるわな。その孫な、研究所の助手らしい」


カダルはセトの顔をじっと見る。


「なぁ、俺は置いていけ。代わりに孫を連れ出してくれないか?」


カダルはそう言うと、セトに頭を下げた。


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