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生贄の英雄 セト・ウォルカの物語  作者: 下山四郎
Disc02:少年期─魔族領─
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第126話 魔族という呼称



「ほぉ?」


ハビルタンは口元を歪めた。

顔を上げたのはセトだけだ。


「後ろの二人は顔を上げぬか。貴様がセト・ウォルカか?」


顔を上げたセトは、ハビルタンからの問いに答える。


「はい。私がセト・ウォルカにございます。私のみが御尊顔を拝謁に賜ります。従者二名については、無礼に当たりますので、このままで」


セトは鏡像魔法を応用していた。

目を見てそこから視神経を逆流するように脳細胞の動きを見る。

そしてそれを自身の目で見て、相手の考えや動きを察知するのが鏡像魔法。


(転写魔法はこの応用。これを使って自分の脳活動を相手に書き込む魔法。つまり、読ませなければいい)


セトは自分の視界に入る情報を意識的に絞った。

魔素が作用する余地を、できるだけ減らす。


(これで完全に防げるとは思わない。でも、何もせず見られるよりはマシだ)


「………そっち側では、禁呪のはずだが?」


ハビルタンは面白そうに言う。


「はい。事情がございまして、習得致しました」


セトも短く答えた。

転写魔法が使えるなら、鏡像魔法も使える。

それならセトがしたことにも気がついても不思議ではない。


「まぁ、いい。九従者、カンセンについての調査での来訪と申したな?」


ハビルタンは膝を組み、頬杖をついている。


「はい。教会本部よりその命を受けてこちらに参った次第でございます」

「ふん。………教会か。いけ好かな。貴様らの都合ばかりではないか」

「全く返す言葉もございません」


ハビルタンは不機嫌そうな顔をしている。

その表情の作り方は、やはりカダルによく似ていた。


「貴様らは、なぜ我らが魔族と呼ばれるか知っているか?」

「いえ。浅学の私にその知識はございません」

「我らはな、人なのだ。貴様らによって区別されただけだ」


ハビルタンは魔族の誕生について話し出した。


「人は我らの身体を弄った。魔素への適応力の獲得、そのための臓器の処理能力の向上のためにな。その人体実験に使われたのは、主に奴隷と呼ばれる身分の者たちだった」


ハビルタンの表情が消えていく。


「そして、人体実験の過程で生き残った者たちがいた。それが我らの祖先だ」


ハビルタンはしっかりとセトを見ている。


「さらにそれらの過程で廃棄された者もいた。我らは彼らと共に生きて、生態として固定された。それを貴様らは区別して魔族と呼び、そして蔑んだ」


人体実験。

奴隷。

セトは自分が生きてきた時代に、その制度を目にしていない。


「4000年以上前のことだ。知らぬも解らぬでもない。だが、忘れたとは言わせぬ。貴様らは、我らを人ではないと言い、出来損ないと呼んで見下した」


それが根底にあるものか。

セトにその責任はないにしても、ハビルタンはその人の為したことについて、セトに重ねているのかもしれない。


「獣人にしても同じだ。獣は獣として生体が成立している。それをあえて二足歩行にする意味があるか?ないだろう?」


セトは答えられない。


「それを貴様らはあえて二足歩行になるように体を弄った。そして動物たちすら実験として人に似せようとした。どこまでも貴様らの勝手でな」


どう答えても不正解になる。

そんな気がした。


「そして、目の前にいる貴様は、カンセンを調査させろと言う。4000年も経って、まだ貴様らは我らを奴隷か何かと勘違いしているのか?」


セトは表情を変えない。

その微妙なリアクションでさえ、この謁見では落とし穴になりかねない。


「滅相もございません。ですが、我らがかつて行ったことについて、私がお答えする立場にございません。お願い申し上げておりますカンセンの調査というのは、生死の確認のみでございます。陛下の致すことの邪魔になるような真似は致しません」


セトにはそう答えるのが精一杯だった。

余計なことはしない。

生死の確認が取れればいい。


「邪魔はせぬと?」

「はい」


ここでハビルタンはニヤリと笑った。


「貴様らはカダルを連れているな?」

「はい。案内人として、ですが」

「奴は元々この国の主席技術員だった。奴をこの国に置いていけ」


ハビルタンはもう一度言う。


「奴をこの国に置いていく。それが条件だ」


カダルは王宮に入らずに魔動車の中にいる。

入るのを嫌がったのだ。


「本人のいないところで、そのような決定はできません」


セトは一度その場を辞することにした。


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