第125話 謁見の間
魔王ハビルタンとの謁見は翌日には実現した。
それは異常なほど早い決定だった。
ホテルに泊まった翌朝に謁見を申し出て、昼前には決定し、すぐに来いという急使が来た。
「なんでこんなに早いんだ?」
カダルの話では、時間がかかるということだった。
「…………」
カダルは黙ったまま何も言わない。
そんなカダルを見て、ハーレイは茶化したように言う。
「爺さんにもわからんのか?なぁ、なんか心当たりないのか?」
だが、カダルは黙ったままだ。
「しかし、これはちょっと警戒したほうがいいでしょうね」
ソルダはセトに向かって言う。
セトも同じことを思っていた。
(王が他国の人間と会う。時間をかけて待たせることで威厳を示すと思っていたが、どういうことだ?)
セトたちは広い大通りを魔動車に乗って王宮に向かっている。
大通りの先に見える王宮は、その高さは確かにホテルよりも高いものだった。
王宮そのものが三階分ほどの石垣で嵩上げされている。
中央部の建物はもはや王宮というより、テーマパークにでもありそうな規模だ。
その四方には塔が立ち、これだけの大きさを必要とする意味がわからない。
(絢爛豪華というか、建物だけでも示威行為として成立するだろ)
そういう規模の建物だ。
「ちょっと……たんま……階段が……長ぇって……」
入り口に着くまでの階段でハーレイがヒィヒィと息を上げる。
「坊っちゃん、エスカレーターにできませんか?」
「他国の建物を勝手にイジるのはダメだろう」
運動不足のハーレイには階段がきつい。
「ラメント教助祭セト・ウォルカ殿ですな?」
入り口では門番とともに数人の男が立っていた。
その中の二人が歩み出て来て、セトに話しかけた。
「私はツメナグ。この国の外務次官を務めています。西側の国とは交流がないが、君たちを歓迎します」
そしてもう一人の男も口を開く。
「私は式務次官のメイリタ。このままの王との謁見になる。格好も含めて細かな作法はどうでも良いと王は仰せだ。ついて来てくれ」
その二人が振り返り、ひたすら長い廊下を歩き、バカでかい階段を登る。
「次官ってことはかなりの高官じゃないか……」
セトはポロリと呟いた。
それにツメナグが反応する。
「高官というか、人臣の最高位ですよ。全ての長官は王が兼ねますので」
「……全部?」
「ええ。兵部も、民部も、刑部も、財務も。全てです」
「じゃあ、実際の仕事は誰が?」
「我々次官が行います。ですが、決定されるのは全て王です」
「……なるほど」
セトは返事をしながら、少しだけ違和感を覚えた。
王が国の全てを決める。
それなら、この国には政治家がいない。
王の意思を実行する者しかいない。
やがて優に二階分ほどの高さはあろうかという扉の前に立つ。
「どういうことよ……これ」
ハーレイもソルダも度肝を抜かれている。
「こちらは謁見の間。王はあなたちの入室後に入られます」
ツメナグの言葉に、メイリタが続ける。
「作法はそちらに任せるが、無礼な行いはしないでくれ。少なくとも、お前たちの国で無礼に当たることはな」
扉が開かれる。
無駄に広い室内。
三人で腕を広げても一周には足りないだろうという太さの柱が並ぶ。
中央の奥は10段ほど高く、壁なのか背もたれなのかわからないほど豪華な椅子が置かれている。
セトたちはその段の前に跪き、頭を下げて王の登壇を待った。
やがて足音が近づいてくる。
カツ、カツ、カツ、と段を登る音が聞こえる。
ドサッと勢い良く座った音がした。
「余が魔王、ハビルタンである。日の沈む方角の人族よ。よくぞ参った」
よく通る声が、広い謁見の間に響いた。
「表を上げよ」
ハビルタンはセトたちに言う。
だが、カダルから転写魔法のことを聞いている。
『目は見るな』
(目は見るなだったな。だが、しかし……)
先ほど無礼な行いはするな、とも言われた。
王は表を上げよ、と言っている。
顔を上げなければ無礼になる。
(どうしろって言うんだ……)
冷や汗が止まらない。
(クソ……仕方ない)
セトは顔を上げた。
魔王の顔は、どこかカダルに似ている。
雰囲気は違うが、鼻筋や目元はカダルとそっくりだ。
「ほぉ?」
ハビルタンの目は、セトの目を見ていた。




