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生贄の英雄 セト・ウォルカの物語  作者: 下山四郎
Disc02:少年期─魔族領─
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第123話 魔王の国



「ハビルタン魔王国?」


セトはその国の名前を口にした。

どんな国なのか想像もできないが、カダルはどうやら知っているような印象だ。


「ああ」


そのカダルはそれだけ答えると、小舟へ向かって歩き出した。

何も話したくはない。

そんな態度で、足早に歩く。


「待て、爺さん」


ソルダが後を追う。


「まだ聞きたいことがあるだろうが」

「聞いたところで、ここにいる御子が知ってることなんざたかが知れてる」


カダルは振り返らない。


「だったら、聞けるだけ聞いてから行けばいいじゃん」


ハーレイもソルダと一緒にカダルを引き留めようとした。


「だからもう聞いただろうが」

「いや、あれじゃ足りねぇよ」


セトはまだ建物の中で、セジンをジッと見ていた。

ハーレイとソルダがカダルを引き止めようとし、建物の中を振り返ると、セジンは困ったような顔をしていた。


「……僕に答えられることなら、いくらでも答えるよ」

「じゃあ聞くぞ」


セトは再び口を開いた。


「魔王軍がここにいたのは、何百年も前からなんだな?」

「少なくとも僕が御子になった時にはいたよ」

「どれくらい前に御子になった?」

「十年前くらいかな」

「十年……」


思ったよりも最近だ。

セトはそう思った。

だが、セジンは続けた。


「でも、僕の前の御子も知っていた。さらにその前も。その前も。さっきも言ったけど、歴代に受け継がれてきたんだ。魔王軍がこの湾のほとりにいるって情報はね。御子に指名されて送り出されるとき、ドラドからは一人でここまで来た。だから教会が魔王軍がいることを把握していたかは知らない。僕は報告してないし」


セトは黙った。

何百年も。

たった一つの祭壇を監視するために軍隊を置いていた。

ましてや、東方の祭壇はここだけではない。

東方には他にも五基あったはずだ。

ここ以外の四基は破壊されたと聞いている。


「他の祭壇にもいたのか?」

「さあ……」


セジンは首を横に振る。


「僕にはわからない。ただ、ハビルタンの魔王がこの場所を知っていたことだけは確かだよ」

「どうして知っていた?」

「それは僕にもわからない」


セジンは苦笑した。


「でも、四英雄を知っていたのは確かだと思う」

「間違いないか?」

「うん。九従者もね」

「祭壇の役割もか?」

「……知っていたと思う。そうじゃないとここにはいないはずだし」


その答えを聞いて、セトは考え込んだ。

教会は、四英雄と九従者の帰還について秘匿事項としている。

祭壇についても、一般にはほとんど知られていないし、神聖な禁足地のようになっている場所もある。


それを魔王が知っている。

しかも数百年前から。

一体、どこから、いつ情報が漏れたのか。


「カダル」

「なんだ」

「ハビルタンって国は、どんな国なんだ?」


カダルはようやく振り返った。

その顔には、さっきまでとは違うものが浮かんでいた。

嫌悪。

警戒。

そして、少しばかりの諦め。


「魔族の国だ」

「それは聞いた」

「だったら十分だろ」

「十分じゃない」


セトは即答した。


「俺たちはこれから、その国へ行くんだろう?」


カダルはしばらくセトを見つめた。

やがて、小さく息を吐く。


「……ハビルタンには案内はしてやる」

「どういう意味だ?」

「連れて行くだけだ」

「何かあるのか?」


カダルはヤサクルス湾の向こうを見た。


「うるせぇ。近寄りたくねぇんだ」


それだけ言うと、カダルはさっさと小舟に乗り込んでしまった。

セトも何も言わない。


カダルが小舟の中で黙っていた。


「なぁ爺さん?」


ハーレイがカダルに話しかける。


「なんでそんなに行きたくねぇんだ?」

「うるせぇよ」


カダルは何も語らない。

これ以降めっきり口数の減ったカダルは、道案内をするときに口を開くだけになった。


魔動車で移動すること四日。

ハビルタン魔王国の東端の街、ガラッシュに到着した。


「なんか、すげぇな」


それが第一印象だった。

整然と整えられた街。

広い中央通り。

道は平坦に整えられ、広がる街並みは近世のそれに思えた。


「ここがガラッシュだ。ハビルタンの西の玄関口だ」


カダルは簡単に説明だけする。


「ここに用事はねぇ。目的地はさらに東だ。ハビルタンの首都コペグダに向かう。街道をずっと東に進めばいい」


その街道もまた平坦な道だ。

地形の高低差はあっても、車体の揺れがない。


(文明の差……だな)


明らかに高度な文明だ。

それがセトの感想だった。


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