第122話 ヤサクルス湾の祭壇
翌日にすぐに魔動車に乗って移動を開始したセトたち。
「あんな居心地の悪い街、さっさとおさらばしないと、どんな罰があるかわかったもんじゃない」
ハーレイとソルダはドラドの街には二度と立ち寄りたくないようだ。
「だから言っただろう?居心地の悪さは抜群だ」
カダルはなぜか二人の様子を見て、してやったりの顔をしている。
「それで?このまま湖沿いに北東でいいのか?」
「ああ、そうだ。そのまま進めばヤサクルス湾だ」
そこには半日で到達した。
かなり街から近い距離にある。
「魔動車だから近いだけだ。普通に歩けば二日かかる」
湾には船着き場もある。
小舟もある。
「おい、祭壇だろう?なぜこんな設備がある?」
セトは船着き場を指さした。
「知らねぇよ。あの薄っすら見える小島がお前たちの言う祭壇だろ?だがな、このクミル湖は漁業も有名なんだ。使いやすいこの場所に船着き場があってもいいだろう?」
危険だろう。
セトはそう思ったが、あえてなにも言わなかった。
4000年前に辺境として祭壇を設置した場所が、時とともに発展すればこうなるのか、そう思うことにした。
「とりあえず行くか」
セトは船着き場で小舟を借りて、小島へと向かう。
その小島は、エスクアの西の島の祭壇のように、祭壇が剥き出しで、生活スペースとして小さな建物があるだけの島だった。
至る所が地面は大きく抉れている。
目につく範囲でもかなりの被害があったように思えるほど、何かが暴れた傷が残っていた。
「失礼します」
セトは建物のドアをノックして開けた。
中には中年の男性が一人。
これがこの祭壇の御子だろうか?
「突然の訪問にて失礼いたします。助祭のセト・ウォルカです」
セトはその男性に挨拶をする。
「おお、君が!いや、待っていた!ささ、座って!僕はセジン・バージル。ここの御子だよ!」
セジンと名乗った男は、かなり人懐っこい性格のようだ。
セトたちは西の島の祭壇の件もあって、なかなか座らない。
あのときは哀願のマチスが御子に化けていた。
「ラバエド大司教から聞いてるよ。西の島の件は大変だったね。ここは大丈夫。迷妄のカンセンは討滅済みだから」
だが、その言葉だけでは信用できない。
それを信用した結果、マチスのときは鏡像魔法によって窮地に立った。
「討滅した証拠などはありますか?例えば、遺骸であるとか、そういった目に見える形の物で」
セトはセジンに問いかける。
セジンは椅子に腰掛けながら、少し残念そうな顔で話し出した。
「ないんだ。というのもね、教会には討滅としか報告してないんだけどね……」
そこで言葉を区切る。
どうやら話しにくいことらしい。
「実は、討滅していない?」
その様子にセトは、念のための確認をする。
「そうじゃないんだ。討滅はしたんだ。でもね………僕だけで討滅したわけじゃないんだ………」
セジンは独力ではないと言い出した。
「本来祭壇の御子は単独で堕ちた者を討滅しないといけないんだけどね。実はね、穴が開いた時に、魔王の軍がいたんだ……」
魔王?
初めて聞く単語だ。
「カダル、魔王ってなんだ?」
セトはカダルに聞いた。
カダルは心底嫌そうな顔になる。
「ここまでの地域は自治領みたいな街ばっかりだっただろう?ここからさらに東にある街は、国として纏ってるんだ。いくつかの国があってな、それぞれ治める王が魔王を名乗ってる」
「何人かいるのか?」
「いる。魔族の国の王だから魔王だ」
魔王……。
語呂的には悪役なんだが、どうやらそうでもないのか?
セトはそんなふうに思った。
セトはセジンに向き直り、さらに問う。
「どうしてその魔王がここに?」
セジンはさらに情けないというふうに頭を抱えて話した。
「その魔王はね、全て知っていたよ。四英雄のこと、九従者のこと、祭壇のこと。その上で何百年も前からこの周りに軍隊を詰めてた。待ってたんだ。彼らが帰還するのを」
待っていた。
その一言が引っかかる。
本来英雄たちに関わる真実や祭壇の役割は重大な秘密。
そんなに簡単に外部に漏れるはずがない。
「僕の先代、というか歴代のここの祭壇の御子たちも魔王の軍が湾のほとりにいることは承知していた」
「それは、教会には報告していないんですか?」
セトは疑問に思ったことを聞く。
「してないよ。というか、できなかった。お前たちの秘密を暴露すると言われたら、それはできないよ。ラメント教圏の秩序が乱れる」
また秩序か。
そのために歪みが出ているようにも思うが。
「それで?カンセン討滅の証拠は?」
セトは魔王がなぜそれを知っていたかも気になったが、とりあえずここで聞くべきことを優先する。
「遺骸はね、魔王の軍隊が持って帰った。実験体だって言ってたよ」
「実験?」
「なんの実験かは知らない。情けないけどね、僕はほとんど御子としての役割は果たせなかっだ」
カダルは「チッ」と舌打ちした。
「出るぞ。ここにはもう用事はねぇ」
なにか不機嫌そうにしているカダルに、ソルダが話しかける。
「爺さん、用事はねぇって行き先がわからねぇだろ?」
「わかる。全部知ってる?そんなヤツはそう多くねぇよ。しかも立地的にここから近ぇ国、実験大好きとくりゃハビルタン魔王国だ」
セトはセジンをチラッと見た。
「そうなのか?」
セジンは小さく頷いた。




