第121話 商業の街の教会
ドラドの街は、原理派の街と聞いていた。
しかし、その駅に降り立ったセトが感じたのは、全く違う印象だった。
「工業地帯だと思ってたが、違うのか?」
油の臭いはない。
モクモクと立ち昇る煙もない。
巨大な建物はあるにはあるが、どう見ても工場ではない。
「工業地帯?ここは商売の街だ。そんなもんねぇよ」
カダルは呆れたように言う。
「この街は湖の周りに商人たちが集まってできた街だ。東と西の中継点みたいな場所だからな」
そのカダルの言葉に、ハーレイが反応した。
「それならなんで歓楽街がないんだ?」
「この街じゃ誰でも勝手に商売できるわけじゃねぇんだ。そんなんしたらな、とんでもねぇ不埒モンが紛れ込む。治安維持って意味じゃ居心地の悪さは抜群の街だ。なんもにも面白くねぇぞ」
カダルによるとこの街では、
歩き食いをすると二日間の鞭打ち
路上で酒を飲むと懲役
窃盗は両腕の切断
人身売買、性犯罪は生殖器の破壊
他国の逃亡犯は死刑
他にも過剰な刑罰はいくつもあるらしい。
(なんだそれ……自治領にしても過剰だろう)
「だからな、この街で商売するには会合衆から割り当てられた区画に店を出すしかねぇんだ。その分、いいもんが揃ってるがな」
駅を降りてすぐに露店が並んでいる。
確かに店先に並ぶものは、どれもそれなりの値が張るものばかりだ。
「こんなふうに露店だらけでも窃盗が起きないのか?」
「起きねぇよ。刑が厳しいからそんなんしたって割に合わねぇ。そんな奴らはこの街には入りたがらねぇんだ」
なるほどな、とセトは思った。
「おっと、小僧、気をつけろよ。人が歩くときは道の左側を歩け」
「ん?なんでだ?」
「道の真ん中あたりに並んで歩くと罰がある。通行の妨害で足の指の股に釘が打たれるぞ」
「細かいな。気をつけるけど、そこまで必要なのか?」
「必要だ。あれ見てみろ」
そう言ってカダルが指差した先には、荷下ろしをしている馬車がある。
「馬車が通る道を妨害したら支障が出るだろ?ここじゃ商売が優先だ。道の右側は馬車が通る。だから空けておけ」
商業に特化というより、商業のみを突き詰めた結果の極端な街という印象だ。
「着いたぞ。教会だ」
しばらく歩いてたどり着いた教会は、これまで見てきた魔族領のどの街の教会よりも立派に見えた。
ラメント教圏の教会から比べると見劣りするが、それでも異教圏での規模としては十分大きい。
ドアを開けて中に入ると、中の様子もラメント教圏の教会の雰囲気によく似ていた。
「突然の訪問にて失礼いたします。助祭のセト・ウォルカです」
中には誰もいないようだが、セトはそう声をかけて中に立ち入った。
教会の奥からバタバタと音が聞こえ、ドアが開いて男性が出てきた。
「ウォルカ助祭?ああ、君がそうなのか?」
その男性は姿を見せるなり、セトに歩み寄ってくる。
「ラバエド大司教からの知らせは来ている。祭壇の件だったか?」
大柄で日によく焼けた肌の男性はセトの前に立った。
「私はクローヴ・アニス。東方の司教をしている。マグナ君と同じ役職だと思ってくれていい」
「はい。よろしくお願いします」
そう言えば、マグナは大丈夫だろうか?
司教から司祭に降格したと聞いたが、その後どうなっただろう?
「それで、祭壇の件だったな?祭壇はこの街にはない。クミル湖沿いに北東に進んだ先、ヤサクルス湾の小島だ」
クミル湖というのは、この街の目の前にある湖だ。
一見すると海のように広く、対岸は肉眼では見えない。
「そちらに堕ちたものについての調査で参りました」
セトは旅の目的を告げる。
「それも聞いている。そこに堕ちたのは迷妄のカンセン。討滅したとの報告を祭壇の御子から受けた。詳細は直接聞くといいだろう」
それだけ言うと、クローヴは教会の奥に戻っていった。




