第120話 機関車
「汽車に乗る」
セトはそう言って聞かなかった。
料金は高い。
しかも貨車に魔動車を積み込む。
まだ朝の早い時間だ。
セト以外の全員が寝起き。
「馬鹿言ってんじゃねぇ。金がねぇだろ」
起き抜けにカダルはセトを諌めた。
「この街には教会もないんですよ。手当をもらえる場所がないのにいらない出費は、しないほうがいい」
ぼんやりした頭で、ソルダは手持ちの金を数えている。
「お前たちは、金がなくても歓楽街で遊ぶじゃないか」
セトはソルダとハーレイを睨んだ。
「俺は何も言ってないんですけどぉ……」
ハーレイはバツ悪そうに目を逸らして布団に潜り込んだ。
「技術を売る」
セトはポツリと呟いた。
しかしその一言をカダルは聞き逃さない。
「昨日ダメだって言っただろう!」
「そうじゃない!」
セトは全てを売るとは言ってない。
「あの、砂を排出する部分。あれだけ売る」
「あ゛ぁ?」
「風の遠心力で砂を落とす部分。あれだけ売る」
「なんだと?」
「あれなら、家に入り込む砂を吸って、砂だけ捨てられる。掃除が楽になる」
小型のサイクロン式掃除機だ。
全てを作る必要はない。
原理を教えて、実物は作らせればいい。
「作ると時間がかかるぞ」
「作らない。図面にする。図面と理屈を売る」
「それで?」
「できるだけ高く売りたい。もしくは多くに人にそれなりの値段で売りたい」
カダルは腕を組んで考える。
確かにそれは売れる。
(ここは塩湖の街、塩を貨車に積んで運ぶのが役割。砂以上に塩の処理にも使えるか)
「わかった。お前は図面を引け。多分だが、昔馴染もここにはいる。少し当たってみる。おい!ヤブ医者!筋肉バカ!お前らついてこい!」
カダルはハーレイとソルダを連れて出て行った。
ハーレイとソルダはガチャガチャと身支度をしたが、カダルは寝ていた格好のままだ。
一人部屋に残されたセトは図面の作成に入る。
「できるだけ小型がいい。女や子どもが使えるなら尚いい」
セトはブツブツと言いながら図面を引いた。
持ち運べるように。
砂を捨てやすいように。
狭いスペースでも使えるように。
魔素の使用はできるだけ少なめで。
セトはとにかく使い勝手を考えて図面を引く。
いつの間にか昼に差し掛かる時間になった。
「おい!小僧!興味あるって奴ら連れてきた!」
バタン!とドアを壊さんばかりの勢いでカダルが部屋に入ってきた。
後ろには十人ほどの見知らぬ人。
「図面はできたんだろうな!?」
カダルがズカズカとセトの横に立ち、図面を覗き込む。
「これで行けると思う」
そういうセトから図面を引ったくると、両手で持って広げた。
「どうだ?買うか?」
カダルは彼らに問う。
回答は八人が買うと言う。
買うと言った八人を残して、残りは退出した。
「よし、前金置いてけ」
買うと言った八人はソルダに金を渡して退出していく。
「八枚用意しろ。同じものだ。それを届けて残金を回収したら出発する」
ずっしりと重くなった巾着袋の金を眺めて、ハーレイの鼻の下が伸びる。
「ドラドって歓楽街あるのか?」
「ねぇよ。ドラドはそういう街じゃねぇ」
カダルの言葉にハーレイはやる気を失ったように、無言で布団に潜り込んだ。
「じゃ、出発の時に起こしてください」
再び寝るようだ。
図面はこの日のうちに完成した。
八枚を渡し終えて駅に向かう。
「これが機関車だ。ここには人と塩の運搬を目的に立ち寄る」
カダルが魔動列車を見てしみじみと言った。
「これ、カダルが設計したのか?」
「機関部だけだ。俺一人じゃないがな」
「すげぇな。動力は?」
「塩だ」
「塩?」
「塩をな、分解するだろ?そうするとな、水につけると爆発するもんができる」
金属ナトリウムの状態にして水と反応させる?
「危険すぎないか?」
「危険だ。だから制御には細心の注意が必要だ」
「技術的に可能にしたのか?」
「不可能ならこいつは動かない。水の少ない地域でこいつを動かすには、これが一番だと思ったんだ」
サビも含めてかなりのリスクがあるはずだ。
整備から運用まで手間のかかる技術だ。
「乗るんだろう?」
「もちろん」
「まぁ、ドラドまでは四日かかる。街道に比べて揺れも少ないから気楽なもんだ」
カダルはタラップを上がってさっさと客室に行ってしまった。
「しかし、すげぇな」
セトはその車体に見とれている。
「先行きますよ」
ハーレイとソルダも客室に向かった。
金属ナトリウムと水の反応か。
それで爆風を得てシリンダーからピストンに圧力を制御する?
危険だし、どういう原理だ?
魔法にしても、普通はそうしない。
そういう発想にならないだろう。
「動力が塩って……無茶苦茶だろ」
セトもようやく客室に向かう。
車窓に流れる景色を眺めながら、四日後に彼らは目的地のドラドに到着した。




