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生贄の英雄 セト・ウォルカの物語  作者: 下山四郎
Disc02:少年期─魔族領─
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第120話 機関車



「汽車に乗る」


セトはそう言って聞かなかった。

料金は高い。

しかも貨車に魔動車を積み込む。

まだ朝の早い時間だ。

セト以外の全員が寝起き。


「馬鹿言ってんじゃねぇ。金がねぇだろ」


起き抜けにカダルはセトを諌めた。


「この街には教会もないんですよ。手当をもらえる場所がないのにいらない出費は、しないほうがいい」


ぼんやりした頭で、ソルダは手持ちの金を数えている。


「お前たちは、金がなくても歓楽街で遊ぶじゃないか」


セトはソルダとハーレイを睨んだ。


「俺は何も言ってないんですけどぉ……」


ハーレイはバツ悪そうに目を逸らして布団に潜り込んだ。


「技術を売る」


セトはポツリと呟いた。

しかしその一言をカダルは聞き逃さない。


「昨日ダメだって言っただろう!」

「そうじゃない!」


セトは全てを売るとは言ってない。


「あの、砂を排出する部分。あれだけ売る」

「あ゛ぁ?」

「風の遠心力で砂を落とす部分。あれだけ売る」

「なんだと?」

「あれなら、家に入り込む砂を吸って、砂だけ捨てられる。掃除が楽になる」


小型のサイクロン式掃除機だ。

全てを作る必要はない。

原理を教えて、実物は作らせればいい。


「作ると時間がかかるぞ」

「作らない。図面にする。図面と理屈を売る」

「それで?」

「できるだけ高く売りたい。もしくは多くに人にそれなりの値段で売りたい」


カダルは腕を組んで考える。

確かにそれは売れる。


(ここは塩湖の街、塩を貨車に積んで運ぶのが役割。砂以上に塩の処理にも使えるか)


「わかった。お前は図面を引け。多分だが、昔馴染もここにはいる。少し当たってみる。おい!ヤブ医者!筋肉バカ!お前らついてこい!」


カダルはハーレイとソルダを連れて出て行った。

ハーレイとソルダはガチャガチャと身支度をしたが、カダルは寝ていた格好のままだ。


一人部屋に残されたセトは図面の作成に入る。


「できるだけ小型がいい。女や子どもが使えるなら尚いい」


セトはブツブツと言いながら図面を引いた。


持ち運べるように。

砂を捨てやすいように。

狭いスペースでも使えるように。

魔素の使用はできるだけ少なめで。


セトはとにかく使い勝手を考えて図面を引く。

いつの間にか昼に差し掛かる時間になった。


「おい!小僧!興味あるって奴ら連れてきた!」


バタン!とドアを壊さんばかりの勢いでカダルが部屋に入ってきた。

後ろには十人ほどの見知らぬ人。


「図面はできたんだろうな!?」


カダルがズカズカとセトの横に立ち、図面を覗き込む。


「これで行けると思う」


そういうセトから図面を引ったくると、両手で持って広げた。


「どうだ?買うか?」


カダルは彼らに問う。

回答は八人が買うと言う。

買うと言った八人を残して、残りは退出した。


「よし、前金置いてけ」


買うと言った八人はソルダに金を渡して退出していく。


「八枚用意しろ。同じものだ。それを届けて残金を回収したら出発する」


ずっしりと重くなった巾着袋の金を眺めて、ハーレイの鼻の下が伸びる。


「ドラドって歓楽街あるのか?」

「ねぇよ。ドラドはそういう街じゃねぇ」


カダルの言葉にハーレイはやる気を失ったように、無言で布団に潜り込んだ。


「じゃ、出発の時に起こしてください」


再び寝るようだ。


図面はこの日のうちに完成した。

八枚を渡し終えて駅に向かう。


「これが機関車だ。ここには人と塩の運搬を目的に立ち寄る」


カダルが魔動列車を見てしみじみと言った。


「これ、カダルが設計したのか?」

「機関部だけだ。俺一人じゃないがな」

「すげぇな。動力は?」

「塩だ」

「塩?」

「塩をな、分解するだろ?そうするとな、水につけると爆発するもんができる」


金属ナトリウムの状態にして水と反応させる?


「危険すぎないか?」

「危険だ。だから制御には細心の注意が必要だ」

「技術的に可能にしたのか?」

「不可能ならこいつは動かない。水の少ない地域でこいつを動かすには、これが一番だと思ったんだ」


サビも含めてかなりのリスクがあるはずだ。

整備から運用まで手間のかかる技術だ。


「乗るんだろう?」

「もちろん」

「まぁ、ドラドまでは四日かかる。街道に比べて揺れも少ないから気楽なもんだ」


カダルはタラップを上がってさっさと客室に行ってしまった。


「しかし、すげぇな」


セトはその車体に見とれている。


「先行きますよ」


ハーレイとソルダも客室に向かった。


金属ナトリウムと水の反応か。

それで爆風を得てシリンダーからピストンに圧力を制御する?

危険だし、どういう原理だ?

魔法にしても、普通はそうしない。

そういう発想にならないだろう。


「動力が塩って……無茶苦茶だろ」


セトもようやく客室に向かう。


車窓に流れる景色を眺めながら、四日後に彼らは目的地のドラドに到着した。


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