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生贄の英雄 セト・ウォルカの物語  作者: 下山四郎
Disc02:少年期─魔族領─
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第119話 塩湖の街



セトは鉄道を追いかける。

魔動車は全速力ではないが、それなりの速度が出ている。


「坊っちゃん!速すぎる!」


後ろからハーレイが言う。

ソルダの馬は徐々に遅れだした。

カダルは腰を押さえて痛みに耐えている。


街道とはいえ、コンクリートで固めたような道路ではない。

それなりに揺れる。

そして速度を速めたら余計に揺れる。


「小僧……」


カダルがうわ言のようにセトを呼んだ。

だが、セトには聞こえない。


「小僧!」


今度は叫ぶようにセトを呼んだ。


「汽車は逃げねぇ!次の街に汽車の駅がある!急がなくても一日に何便か駅に入る!」

「……駅があるのか?」


セトはカダルの方を向いた。


「あるっつってんだろ……」

「次の汽車は?」

「知らねぇよ」

「何時に来る?」

「だから知らねぇって!それより!前見ろ!」


少し先に行商の隊商が迫っている。


「うわっ!」


セトはハンドルを切って魔動車はギリギリで隊商を避けた。


カダルは腰を押さえながら深く息を吐いた。


「そもそも、あれを追いかけてどうするつもりだったんだ?」

「乗る」

「……」

「乗ってみたい」


カダルは何も言わなかった。


「お前、汽車を見たことがないのか?」

「ない」

「そうか……」


カダルは少しだけ黙った。


「じゃあ、街まで行くぞ。俺も腰が限界だ」

「わかった!」


セトはようやくアクセルを緩めた。


その日の夕暮れには街に着いた。

塩湖の街、シュピルー。


「汽車はどこだ!」


セトは真っ先に魔動車から飛び出した。

その様子に街の人々の視線が集まる。


「坊っちゃん、目立ち過ぎ」


ハーレイが後部座席から降りてきた。


「小僧、今日はもう汽車はいねぇよ。ここは塩湖の街だ。中継点なんだよ。明日だ」


そのカダルの言葉にセトはガックリの肩を落とす。


「とりあえず宿を取る。先に行っとく」


ソルダは馬を引いて街の中に入っていった。


「それはそうと、これはどんな状況?」


ハーレイは魔動車の周りにできた人集りを見て、顔を引きつらせた。

いつの間にか魔動車の周りには、好奇の目をした人々が集まっていた。


「珍しいんだろうよ。ここは原理派の中でも結構技術屋が多い」


腰を押さえたカダルはまだ客席から出られない。


「腰が痛ぇ。ヤブ医者、早くどうにかしろ」

「そんな事ばっかり言うからやりたくなくなるんだ!」


ハーレイはカダルを指差して文句を言っている。


その間も魔動車の周りに集まった人々は口々に何か言っていた。


「魔力で動くのか?」

「どこから動力を取ってる?」

「機関が小型だ。どうやってシリンダーに接続してる?」


周囲から次々と声が飛んでくる。

セトはその声を聞きながら、少し嬉しそうに魔動車を見た。


「……見せてもいい?」

「ダメだ」


カダルは即答する。


「なんで?」

「盗まれる」

「……」

「お前、技術者ってのは自分が作ったものを見せびらかしたくなる生き物だと思ってねぇか?」

「違うの?」

「違わねぇけど、だからこそダメなんだよ」


確かに技術は貴重なものだ。

金になる。


「じゃ、売る?」

「てめぇは商売をしに来たのか?」

「違うけど」

「じゃ、やめとけ」


そこにソルダが戻ってくる。


「宿が取れた。とりあえずそっちに移動する。魔動車も停めていいそうだ」


翌朝、シュピルーの駅に汽笛が響いた。


「来た!」


セトが飛び起きる。


「朝っぱらからうるせぇ……」


カダルは布団の中で腰を押さえた。

昨晩、ハーレイに治療してもらったはずだが、まだ不安らしい。


セトは窓から駅を見た。

大量の塩を積んだ貨車が、ゆっくりと駅へ入ってくる。


「……すげぇ」


その目は、まるで子供のようだった。


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