第118話 蒸気機関
魔動車の改造は終わった。
連続運転の時間も延びた。
「ドラド、だったか?どっちに向かえば着く?」
セトはカダルに次の街の方角を確認する。
目の前は砂漠。
次も直線で向かうなら、方位磁針を設定し直す必要がある。
「ドラドはな、ここから直接は行けねぇ。北に迂回する。」
直接行けない。
川、あるいは急峻な山だろうか?
「どういうことだ?」
ここまでの砂漠越えに加えて、魔動車は改造してある。
少々の悪路でも何とかなりそうだ。
「ドラドはここから東北東方向だ。直線ではな。ただ、その途中に魔獣の住処がある」
「魔獣?」
「そうだ。魔獣アーケローンの住処だ。刺激しなければ問題ないが、小さな振動にも気がついて砂ごと食われる。だから直線には行けねぇ」
砂ごとというのはどういうことだ?
そもそも魔獣という存在も知らない。
「魔獣って?」
「知らねぇよ。世界には何体かいるんだと。馬鹿デカい魔物だ。討伐なんて考えないほうがいい。ありゃそういう次元の話じゃねぇ」
「養成院ではそんな存在は教わらないが?」
「そりゃそうだ。ラメント教にとって都合が悪いことなんて教えるわけがねぇ」
魔獣か……
見てみたいが……
怪獣だろうか?
「坊っちゃん、見たいとか思ってませんよね?」
ハーレイはセトの顔を覗き込んだ。
「いや、一目だけでも……」
そのセトの言葉はカダルに遮られる。
「一目見た時にはお前は砂と一緒に食われてる。やめておけ」
こうしてセトたちは北に向かって出発した。
北に向かうと、一日目は砂漠だったが、二日目からは緑が増えてきた。
「この辺が砂漠の境界みたいだな」
ソルダの馬も歩きやすそうだ。
三日目、低い草ばかりだった景色は、完全に緑の平原に変わる。
「まだところどころ砂地はあるけど、それでも平原だな。これは」
砂のように突然沈むような場所は、もうほとんどない。
「このまま草の上を走るより、近くに街道があるなら、その街道を走るほうがいいんじゃないか?」
「それもそうだな」
セトの案にカダルが同意する。
「この平原の先に、踏み固めた行商用の街道がある」
カダルが指を差した。
「ソルダ!この先に街道があるらしい!先行して確認してきてくれ」
セトは馬に跨るソルダに指示を出した。
ソルダの姿が丘を越えて小さくなり、しばらくして戻ってくる。
「坊っちゃん、確かに街道だ」
「人は?」
「何人か行商人がいた。馬車も通っている」
「なら、あとは街道沿いに行けばいい」
「あと、それと、なんか変な道があった。鉄の棒?みたいな線が二本向こうに向かって──」
その言葉にセトは反応した。
「鉄道だ!!」
「……なんだって?」
「鉄道!」
セトは立ち上がった。
「鉄道がある!?早く行こう!」
セトはアクセルを目一杯踏んだ。
カダルはガタンと背もたれに押し付けられる。
ハーレイは客車を改造した後部座席から落ち、昼寝の邪魔をされた。
魔動車の横にいたソルダは置き去りにされた。
「え?なんて?」
ソルダはとりあえずフルアクセルで草の上を駆け抜ける魔動車を見つめていた。
それは街道と並行するように敷かれた二本のレール。
「線路がある……」
セトは魔動車を降りて線路を見つめていた。
「なぁ!カダル!汽車はいつ来る!?」
カダルは先ほどの衝撃で腰を痛めている。
そして汽車そのものは見慣れたものだ。
「……うるせぇ。痛ぇ。クソガキが」
カダルは動けない。
その時線路の向こう、西側から蒸気を上げながら近づいてくる黒い塊があった。
「汽車だ!蒸気機関だ!すげぇ!」
セトは手放しで喜んでいた。
「……何がそんなに珍しいんだ」
カダルはセトにユサユサと揺すられ、痛みに耐えることをやめた。
セトの頭にゲンコツを落とし、セトを引き剥がした。
「珍しくないのか!?」
「珍しくねぇよ。毎日走ってる」
「毎日!?」
「……あれはな、俺が設計したんだ」
そのカダルの言葉に、セトは目を輝かせた。




