第116話 異端の技術
アラディーダに着いたセトたちは、まずは教会に向かった。
やはり、魔族領ということもあって、アラディーダの教会もかなり小規模だ。
「珍しいことがあるもんだ」
教会に入ってきたセトたちを見た神父の第一声はそれだった。
「はじめまして。助祭のセト・ウォルカです」
セトは名乗って頭を下げる。
「ああ、君が。話は聞いてるよ。随分早かったね」
神父はそう言って話し始めた。
「少し前にヘネス本国からの使者が来てね。君が来ることを教えてくれた。砂漠は大変だっただろう?」
礼拝堂の椅子に腰掛けるように促され、セトたちはそこに腰掛けた。
「実はもう少し時間がかかると思っていたんだ。砂漠を突っ切るのは現実的じゃないしね。迂回するとしたらかなりの時間がかかる。あと二週間ほどはかかると思っていたんだ」
神父はひたすら話している。
「いや、すまないね。ここはホクウ教原理派の街。ラメント教は極少数で、教会に来て話をしてくれる人が少なくて」
話し相手に困っているようだ。
「かなり早かったけど、どうやってこんなに早く?」
「魔動車で」
「魔動車?」
「はい。馬車の客車を改造したもので、魔力で自走します」
それを聞いた神父は黙り込んだ。
何かを考えているようだ。
「それは、この地域だから使えるものだ。へネス教国に帰るときは、それは解体したほうがいい」
神妙な顔つきで神父が言う。
「技術革新はラメント教の教義に反する。あまり西側でそれを使うと、君は神敵と見なされるかもしれない」
セトは考えた。
魔動車の作成はとても楽しかった。
だが、技術革新が教義に反する。
それなら──
「じゃ、棄教します」
セトの判断はそれだった。
(多分きっと持って帰っても大丈夫だ。問題は起きるが、内々で処理される。教会内部としても、俺みたいな存在は使い勝手が良い)
「棄教か。それをして、どうする?」
「何もしません。ただのセト・ウォルカに戻るだけです」
「なるほど。あまりお勧めはしないね」
セトはその神父の様子に対して、不満があった。
自分が楽しいと思ったことを取り上げられる。
そんな気分だった。
「すみませんが、本題は?」
「ああ、そうだったね。使者から君たちに言付けがある。東のドラドを目指せ」
「ドラド、ですか?」
「そう東の街だよ。じゃ、伝えたからね」
神父はそう言うと席を立って、セトに出て行くように身振りで示した。
教会をあとにしたセトたちは、魔動車を宿に移動させる。
「改良する」
セトは宿の部屋に入るなり、もう一度外に出て魔動車の元に向かった。
それに付き合うのはカダルだ。
「もうすぐ日が暮れるぞ?」
カダルはセトに声をかけたが、セトは聞く耳を持たない。
「なぁ、小僧」
それでもカダルはセトの背中に向かって声をかけた。
「機械いじりは楽しいか?」
その言葉に、小さく頷いたようにカダルには見えた。
「そうか。じゃあ、やるか」
カダルはセトの横に立ち、魔動車の改良を始めた。
二人を追いかけて来たハーレイとソルダにやることはあまりない。
材料の調達だけしてしまえば、手伝えることはないと言っていい。
「なぁ?このまま部屋に戻るか?」
「男二人で?」
「そりゃあり得ないだろう?」
「そうだよな?」
そう言って二人は歓楽街に出かけていった。
全員が気が向くままに夜を過ごし、明け方になって示し合わせたように全員が部屋に同時に入った。
なんとなく全員笑っていた。




