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生贄の英雄 セト・ウォルカの物語  作者: 下山四郎
Disc02:少年期─魔族領─
115/140

第115話 砂漠の七日間



翌日、魔動車にセト、ハーレイ、カダルが乗り、ソルダは馬に乗ってトゥレイルを出発した。

目指すのは東の街、アラディーダ。


「最高時速は40キロなんだよな?」


ハーレイが運転席から前方を見る。


「理論上はな」


カダルが答える。


「理論上?」

「砂漠で40キロを出し続けられるなら、の話だ」


セトは黙ってアクセルを踏んだ。

魔動車が砂を蹴りながら進み始める。

しばらくは順調だった。

だが、二時間ほど走ったところで、カダルがセトに話しかけた。


「止めろ」

「何か問題がある?」

「問題しかねぇ」


カダルは機関部の中を確認して吸気口を指差す。


「砂を食ってる」

「……やっぱりか」


外部から空気を取り込む以上、砂まで一緒に吸い込んでしまう。

それはエンジンにとって致命的だった。


「連続で運転できるのは二時間。長くても三時間程度だな」


カダルが出した答えだった。

エンジンの洗浄が必要になる。

砂が機関内部に入り込めば、歯車や可動部を傷める。

最悪の場合、魔動車そのものが動かなくなる。


「人も馬も休ませないといけないしな」


ソルダの乗る馬も、既に汗をかいている。

砂漠の暑さは、馬にとっても過酷だった。

さらに魔動車は、運転者の魔素を動力の一部としている。 運転を続ければ、当然、運転者にも疲労が溜まる。


「二時間走って、休憩。洗浄して、また走る」


セトがそう呟いた。


「三人で交代すればいい」


カダルが答える。


「そうなるな」


セトは東を示す指針器を確認した。


「なら、行ける」


こうして、魔動車による砂漠横断が始まった。


一日目。

二時間走る。

魔動車を止める。

風魔法で吸気口から機関内部まで洗浄する。

そして、また走る。


二日目には、三人とも運転に慣れてきた。


「砂、邪魔ですね」


ハーレイが愚痴をこぼした。

砂は機関部以外、運転席にも舞って入ってきていた。


「砂よけっていうか、できませんかね?」


魔動車は馬車の御者席に無理矢理機関部を取り付けている。

御者台は剥き出しのままだ。

形状はロードロコに近い。


「今ここですぐには無理だな」


それがカダルの回答だ。

当然と言えば当然。


「材料がない。アラディーダで改良するしかないな」


三日目には、ソルダの馬が明らかに疲れ始めた。


「ここからは馬を引いていくしかない」


ソルダは馬を降りて、馬を引くようだ。


「先に行っててほしい」

「ダメだ。目印がないだろう。方角がわからないのなら、置いて行くのはマズい」


セトは馬の様子を見ながら進むため、速度を落とす選択をした。


四日目。

五日目。

砂漠の景色は、ほとんど変わらない。

ただ東へ進む。


六日目。

そして七日目──。

目の前に砂とは違う景色が見えた。


「なぁ、蜃気楼か?」


セトは目の前の景色を疑った。


「いや、違うな。着いたってことだ」


その景色に徐々に近づいていく。

それは明らかに街だった。


セトは魔動車のハンドルを握ったまま、街を見つめていた。

七日前、この車はただの鉄の塊だった。

今は、自分たちをここまで運んできた。


「……本当に来たんだな」


セトはそう呟いた。


「本当に、東に進むだけで着いた」


ハーレイが笑った。


誰に言うでもなく、セトは少し笑った。

なんとなく、達成感を感じた。


「着いた」


たった七日間だが、その七日間がセトにとって大きな成果だった。


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