第114話 指針器
とりあえず魔動車は動いた。
操作はもう慣れるしかない。
トゥレイルでの改良は、これ以上は技術的にできないからだ。
「とりあえず、こいつに乗って行く。カダル、次の街は?」
「砂漠の中にもいくつか村はある。だが、かなり小規模だ。補給を考えるなら、多少強行してもデカい街に向かう手もある」
トゥレイルで既に四日を過ごしている。
「サラックで片道半年と言っていたのは、その小さい村を経由するルートか?」
「そうなる。デカい街に直接行くなら、ここから真東、南に一度か二度の方位だ」
(方位はほぼ東か)
「南に一度か二度か。どうやってその微妙な補正をする?」
「一度二度の話なら、とりあえず東に進むだけでも街の近くには着く」
「そうなのか?」
「小さい村は小さな水場の近くだが、デカい街にはそれなりの水場がある。平原とまでは行かないが、それなりに草木もある。ある程度近づけばそれとわかる」
カダルは当然のように答えた。
セトは黙った。
東へ行けばいい。
それだけなら簡単だ。
問題は、東を向き続けることだった。
「方位磁石みたいなものはないのか?」
「ある」
カダルが答えた。
「ただし、高いぞ」
「どれくらい?」
「砂漠を越える旅なら、多少高くても買う奴は多い。それだけ必要なものってことだ」
「……足元を見られてる?」
「そういうことだ」
セトは少し考えた。
そして、魔動車を見る。
「だったら作ればいい」
「また始まったぞ」
ハーレイが呆れた声を出した。
「何を作るんです?」
「方位を示す装置」
「方位磁石を買えばいいでしょうに」
「高いんだろ?」
「……」
ハーレイが黙った。
「坊っちゃん、そういうところだけ妙に金を惜しみますよね」
「必要なものなら作った方がいい」
セトは魔動車の車輪を見る。
そして、少し考えた。
「車輪の回転を使えばいい」
「何を?」
「向いている方向を示す」
指南車の要領だ。
ギアを組み合わせて車体の方向に関係なく、真東を向き続ける方位指針。
「太陽と星の位置で東を向かせる。昼間なら太陽の位置、夜なら星を見る。方位が確定したら出発する」
「それで?」
「あとは、ここ付けた針が東を示すようにしておく」
セトは魔動車の車輪と歯車を交互に見る。
「車が曲がれば、その分だけ針を戻す」
「できるのだろうが、方位の確定が難しい」
カダルが眉をひそめた。
「できるようにする」
「またそれか」
ハーレイが呆れたように笑った。
セトは気にせず、紙を広げる。
「車輪の回転差を使えばいい。右に曲がったら左に、左に曲がったら右に……」
「小僧」
カダルが紙を覗き込む。
「お前、また寝ないつもりか?」
「寝る」
セトは即答した。
「作ってから」
「寝ろ!」
その夜、セトはひたすら星の動きを観察した。
昼に太陽の動きは棒を立てて影の動きで観測した。
翌日、セトは大寝坊したが、東の方位は確定した。
目を覚ましたセトは、昨夜書き散らした紙を見つめた。
「……東は、こっちか」
指先で紙に描いた線をなぞる。
それは、誰かに教えてもらった答えではなかった。
自分で見て、自分で考えて、自分で決めた方角だった。
「これなら行ける」
セトはそう呟いた。
そして、少しだけ笑った。




