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生贄の英雄 セト・ウォルカの物語  作者: 下山四郎
Disc02:少年期─魔族領─
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第114話 指針器



とりあえず魔動車は動いた。

操作はもう慣れるしかない。

トゥレイルでの改良は、これ以上は技術的にできないからだ。


「とりあえず、こいつに乗って行く。カダル、次の街は?」

「砂漠の中にもいくつか村はある。だが、かなり小規模だ。補給を考えるなら、多少強行してもデカい街に向かう手もある」


トゥレイルで既に四日を過ごしている。


「サラックで片道半年と言っていたのは、その小さい村を経由するルートか?」

「そうなる。デカい街に直接行くなら、ここから真東、南に一度か二度の方位だ」


(方位はほぼ東か)


「南に一度か二度か。どうやってその微妙な補正をする?」

「一度二度の話なら、とりあえず東に進むだけでも街の近くには着く」

「そうなのか?」

「小さい村は小さな水場の近くだが、デカい街にはそれなりの水場がある。平原とまでは行かないが、それなりに草木もある。ある程度近づけばそれとわかる」


カダルは当然のように答えた。

セトは黙った。

東へ行けばいい。

それだけなら簡単だ。

問題は、東を向き続けることだった。


「方位磁石みたいなものはないのか?」

「ある」


カダルが答えた。


「ただし、高いぞ」

「どれくらい?」

「砂漠を越える旅なら、多少高くても買う奴は多い。それだけ必要なものってことだ」

「……足元を見られてる?」

「そういうことだ」


セトは少し考えた。

そして、魔動車を見る。


「だったら作ればいい」

「また始まったぞ」


ハーレイが呆れた声を出した。


「何を作るんです?」

「方位を示す装置」

「方位磁石を買えばいいでしょうに」

「高いんだろ?」

「……」


ハーレイが黙った。


「坊っちゃん、そういうところだけ妙に金を惜しみますよね」

「必要なものなら作った方がいい」


セトは魔動車の車輪を見る。

そして、少し考えた。


「車輪の回転を使えばいい」

「何を?」

「向いている方向を示す」


指南車の要領だ。

ギアを組み合わせて車体の方向に関係なく、真東を向き続ける方位指針。


「太陽と星の位置で東を向かせる。昼間なら太陽の位置、夜なら星を見る。方位が確定したら出発する」

「それで?」

「あとは、ここ付けた針が東を示すようにしておく」


セトは魔動車の車輪と歯車を交互に見る。


「車が曲がれば、その分だけ針を戻す」

「できるのだろうが、方位の確定が難しい」


カダルが眉をひそめた。


「できるようにする」

「またそれか」


ハーレイが呆れたように笑った。

セトは気にせず、紙を広げる。


「車輪の回転差を使えばいい。右に曲がったら左に、左に曲がったら右に……」

「小僧」


カダルが紙を覗き込む。


「お前、また寝ないつもりか?」

「寝る」


セトは即答した。


「作ってから」

「寝ろ!」


その夜、セトはひたすら星の動きを観察した。

昼に太陽の動きは棒を立てて影の動きで観測した。


翌日、セトは大寝坊したが、東の方位は確定した。

目を覚ましたセトは、昨夜書き散らした紙を見つめた。


「……東は、こっちか」


指先で紙に描いた線をなぞる。

それは、誰かに教えてもらった答えではなかった。

自分で見て、自分で考えて、自分で決めた方角だった。


「これなら行ける」


セトはそう呟いた。

そして、少しだけ笑った。


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