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生贄の英雄 セト・ウォルカの物語  作者: 下山四郎
Disc02:少年期─魔族領─
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第112話 我忘躯時



トゥレイルで馬車を改造する。

その計画は到着したのが夜になる時間だったにも関わらず、朝まで喧々諤々と話し合われた。

セトとカダルの二人によって。


ぐっすりと眠ったハーレイとソルダは馬車を引く馬四頭のうち、一頭を残して三頭を売りに行く。


「なんで、こいつを残すんだ?」


ハーレイはソルダが残した一頭を指さした。


「一番わがままな性格だからだ」


ハーレイはそのソルダの返答に余計に混乱する。


「一番懐いてるのがいいんじゃないのか?」

「懐いてても使い物にならない奴は困る」

「意味がわからん」

「人でもそうだと思うが、賢い怠け者を戦場に放り込んだら、案外必死に生き残ろうとするだろう?」


ソルダは馬を見る。


「馬は賢い。人と同じとは言わん。それでも、こいつは必死に生き残ろうとするんじゃないか?」


ハーレイは馬を見る。

馬は、面倒くさそうに尻尾を振った。


「馬鹿の頑張り屋も生き残ろうとすると思うけど?」

「そういう奴は周りを混乱させてダメにする。だから賢い怠け者を選ぶんだ」

「ふぅ~ん」


ハーレイはソルダを見た。


「……お前、そんなに賢そうには見えないけどな」

「俺はいいんだ」


セトとカダルは、彼ら二人が帰ってくるまで寝ていた。

蒸気自動車の案はある程度出揃った。

あとは材料を調達して組み立てるだけ。


「坊っちゃん!爺さん!言われてきたもん買ってきた!起きてくれ!」


ハーレイの声で二人は共に不機嫌そうに起きた。


「もう少し優しく起こせないのか?」


セトのその言い分は通らない。


「五分くらい声かけたんだ。キツくなって普通ですよ」


もう既に昼になろうかという時間。

寝坊どころではない時間だ。


「材料は足りますか?」


ソルダが袋を開けて取り出したのは魔結晶だ。


「とりあえずやってみるか」


そのカダルの言葉をきっかけにセトも動き出す。


ガチャガチャと宿の馬車小屋の一角で音が鳴る。


「鉄が足らんぞ!」

「純度が低い!」

「硬度を上げろ!熱で早々にダメになる!」

「曲げの強度は!?」


ハーレイとソルダもスクラップ系の店に出入りして鉄を買い叩いては往復する。


「こんなことしてたら、そのうちこの街にいられなくなるんじゃないか?」


ソルダは尤もな懸念を口にした。


「まぁ、いいんじゃねぇの?」


だが、ハーレイはなんとなく嬉しそうだ。


「坊っちゃんの顔見てみろよ。楽しそうだ」

「まぁ、そうなんだがな」


二人は馬車小屋の中で騒ぎながら馬車を改造しているセトを見た。


「俺はさ、坊っちゃんが七歳のときから知ってる。頭の回る子どもだと思ってたんだ」


ハーレイはそのセトの様子を微笑ましく見ていた。


「感情が薄いっていうかさ、どうも個性があるようでない。だからさ、ああやって楽しそうな顔を見るのが初めてなんだ」


ソルダも納得の顔をしている。


「俺も坊っちゃんの状況は知っている。異界人の知識と記憶を移植された子どもだろ?まぁ、付き合いはお前ほど長くはないが、それでもあの顔は初めて見る顔だ」


二人が見つめる先のセトは、カダルと時に喧嘩腰のような口調で機械を作っていた。


「カダル!そうじゃない。歯車の径を変えればいい!」

「だったらお前が計算しろ!」

「ったく!こっちも手一杯なんだ!」


セトは紙に数字を書き殴っていく。

いつの間にか、頬が緩んでいた。

自分でも気づいていなかった。

ただ、楽しかった。

目の前に問題がある。

それをどうすれば解決できるのか。

考えて、試して、失敗して、また考える。

それだけのことが、どうしようもなく楽しい。


「……なんだろう。初めてなのか。久しぶりなのか……でも、悪くないな」


セトは小さく呟いた。

しばらくして、セトはまた紙に視線を落とした。


「……ここをこうすれば、もっと効率がいい」


さっきまで考えていたことが、また頭の中に浮かんでくる。

歯車を一つ変える。

それだけで、別の部分に問題が出る。

なら、そこを変える。 そうすると、また別の問題が出る。


「面白いな……」


今度は、さっきよりはっきりと口にした。

カダルが横から覗き込む。


「小僧、楽しいか?」

「ああ、楽しい」

「そうか」


カダルはしばらくセトの横顔を眺めていたが、やがて鼻を鳴らした。


「変な小僧だ」

「よく言われる」


セトは顔を上げることなく答えた。

そしてまた、歯車の計算に戻った。


気づけば、外は真っ暗になっていた。

セトは窓の外を見て、初めて時間が過ぎていたことに気づいた。


「……もう夜か」


昼食を食べたことも、何時から作業を始めたのかも、よく覚えていなかった。

ただ、目の前の機械をどう動かすか。

それだけを考えていた。


当初の予定や目的など忘れるほどに、時間は一瞬で過ぎていたように感じた。


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