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生贄の英雄 セト・ウォルカの物語  作者: 下山四郎
Disc02:少年期─魔族領─
111/140

第111話 機械仕掛けの街



「これは、すごいな」


黒く重厚な鋳鉄の歯車が噛み合い、蒸気を噴き上げながら動く巨大な井戸や揚水機が広場にあった。

街頭は明らかにラメント教圏の国より明るく、魔素の利用によるネオンのような様相だ。


「お前らは技術を伸ばさないようにしてるからな」


カダルは自慢そうに腕を組んだ。

そこかしこで歯車の噛み合う音がしている。

夜にもこれだと眠りにくそうだ。


「なぁ、ここに鉄の馬車はあるのか?」


セトの質問にカダルはニヤリとした。


「汽車のことか?鉄の馬車とは……また、おかしな表現を使う」


時代遅れ、とでも言いたげな表情だ。


「なるほど。汽車か。つまり蒸気機関を使うんだな?」


セトのその言葉に、カダルは一瞬で目を見開いた。

先ほどまて『鉄の馬車』などと言っていた小僧が、『蒸気機関』と口にした。


「………小僧。知ってるのか?」

「理屈はわかる。どこにある?見てみたい」

「ここにはない」


その一言にセトは明らかに肩を落とした。


「汽車を砂漠に通すのは至難の技だ。整備が手間すぎて無理なんだ」


カダルは汽車を通せない理由を言う。


砂の移動と気温の極端な変化……

つまりはそれによる維持コストか。


「線路の維持か……魔法でどうにかならないのか?」

「小僧。お前、見たことあるのかないのか、どっちだ?」


カダルは不思議そうにセトを見た。


「見たことはない」


セトは即答した。


「ただ、仕組みは知っている」

「……仕組みを?」

「蒸気の圧力を使って、ピストンを動かす。ピストンの往復運動を回転運動に変える。それくらいなら知っている」


カダルは黙った。

セトの言っていることが理解できないわけではない。

むしろ、その技術は本来独占されているもので、外部に漏れることなど重罪だ。


「誰に教わった?」

「誰にも」

「……」

「本で読んだわけでもない」


セトは街を見渡した。


「ただ、そういうものだと思った」


カダルは眉をひそめた。


「随分と変な小僧だな」

「よく言われる」


ハーレイが横から口を挟む。


「いや、坊っちゃんの場合は本当に変なんですよ」

「お前は黙ってろ」


カダルはセトを見つめたまま腕を組んだ。


「お前の知識の出処は知らん。だがな、外で軽々しく口に出すな。技術は本来、秘密にされるものだ」


カダルは真剣にセトに言った。


(なるほどな。技術を秘匿する文化か。つまり軍事技術が優先という理解でいいか)


セトは街を見渡す。


(民間で使えるようになるには、軍事からの払い下げがあったときだろうな。つまり、魔族領の技術力はまだまだ先がある)


煌めく街の明かりに、セトは技術の高さを見た。


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