第110話 山麓の村
サラックを出発して三日目。
セトたちは山麓の小さな村に到着していた。
山の斜面にはところどころ木々が生えている。
サラックとは違い、空気も少し冷たかった。
この村にはラメント教の教会はない。
「なぁ、爺さん。目的の場所?どれくらいで着くんだ?」
ハーレイがカダルに聞いた。
山越えには嫌な思い出がある。
できれば早く通過したい。
「この山を越えてしばらく進むと砂漠になる。そこからさらに東に進んで、湖沿いに行くから、まぁ、長くて半年ってとこか?」
「半年!?」
「そうだな。それくらいになる」
「行って帰ってで一年か……」
ハーレイはがっくりと肩を落とした。
もっと早く帰れると思っていたのだ。
「一年は長いな」
ソルダも期間の長さに驚いた様子だ。
「あのさ、カダル。馬車って砂漠越えられるのか?」
セトは移動の懸念を口にする。
馬車そのものより、馬に対する懸念が大きい。
「馬車でもできないことはない。だが、馬を連れて行くということは、馬の分の食料も必要だ」
つまり荷物が増える。
「その上、砂漠に入れば補給する場所も限られる。やってやれないことはないだろうが、馬を潰して損をすることを考えるなら、やめておけ」
「じゃ、歩きか?」
セトがカダルに質問したのに、ハーレイはウンザリした表情を浮かべた。
ソルダは特別気にした様子もなく、淡々と馬車に荷物を積み込んでいる。
「歩きはきつい。こう見えても俺は老いぼれだ」
カダルは自身を指差して言った。
「こちとら魔法適性がてめぇらより高い分、体力には自信がねえ。そういう人種なんだ」
「そうなのか?」
「臓器の問題だ。焦臓を強化したがために、他を弱くしたみたいなもんだ」
人種……と言ったか?
魔族などと言われているが、やはり人と変わらない認識でいいのか?
「なるほどな。じゃあ、馬は置いていこう」
ハーレイがギョッとした顔でセトを見た。
「坊っちゃん!簡単に言いますけどね、馬ってお高いですよ!知ってます!」
そうだ。
簡単に切り捨てられるほど安いものではない。
「維持費が高くつくなら、初期費用が高くても捨てるしかないだろう?」
「それなら!せめて売るなりして金にしないと!」
ハーレイがギャンギャンと騒いでいるが、セトはもう聞く耳を持っていない。
その頭の中は違うことでいっぱいだった。
(馬のいらない鉄の馬車が走るなら、汽車なりなんなりは既に技術的には存在するはず。それなら、蒸気機関や疑似的なエンジン機関は?)
馬車の改造のことで、ハーレイなど置き去りになっていた。
セトの頭の中では、すでに馬車は馬車ではなくなりつつある。
「カダル。原典派より原理派の方が技術的には進んでるんだな?」
「そりゃそうだ。原初の命からもらった恵みは最大限に利用しねぇと」
「じゃあ、砂漠に入る前に、原理派が多い街に一度立ち寄りたい」
「あるぞ。三つ。だが、その全てが遠回りになる」
「いい。馬車を改造する」
ソルダは何か言いたげにこちらを見ている。
「馬を置いていくんですか?愛着が湧いてるんですが……」
「邪魔になる」
「一頭だけでもダメですか?」
三人は顔を見合わせた。
どうにも引き下がりそうにない。
「……じゃあ一頭だけ残すか」
ソルダの顔を見て、根負けしたセトが言った。
「坊っちゃん!」
ハーレイが驚いた顔をする。
「いいだろう?別に」
「だったら二頭──」
「一頭でいい」
「なんでです?」
「必要になったらまた買えばいい」
「だから馬は高いんですって!」
その四日後、セトたちは初めて原理派の街に足を踏み入れた。
街の入口から、これまで見たことのない機械がいくつも並んでいる。
セトは思わず足を止めた。




