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生贄の英雄 セト・ウォルカの物語  作者: 下山四郎
Disc02:少年期─魔族領─
110/139

第110話 山麓の村



サラックを出発して三日目。

セトたちは山麓の小さな村に到着していた。

山の斜面にはところどころ木々が生えている。

サラックとは違い、空気も少し冷たかった。

この村にはラメント教の教会はない。


「なぁ、爺さん。目的の場所?どれくらいで着くんだ?」


ハーレイがカダルに聞いた。

山越えには嫌な思い出がある。

できれば早く通過したい。


「この山を越えてしばらく進むと砂漠になる。そこからさらに東に進んで、湖沿いに行くから、まぁ、長くて半年ってとこか?」

「半年!?」

「そうだな。それくらいになる」

「行って帰ってで一年か……」


ハーレイはがっくりと肩を落とした。

もっと早く帰れると思っていたのだ。


「一年は長いな」


ソルダも期間の長さに驚いた様子だ。


「あのさ、カダル。馬車って砂漠越えられるのか?」


セトは移動の懸念を口にする。

馬車そのものより、馬に対する懸念が大きい。


「馬車でもできないことはない。だが、馬を連れて行くということは、馬の分の食料も必要だ」


つまり荷物が増える。


「その上、砂漠に入れば補給する場所も限られる。やってやれないことはないだろうが、馬を潰して損をすることを考えるなら、やめておけ」

「じゃ、歩きか?」


セトがカダルに質問したのに、ハーレイはウンザリした表情を浮かべた。

ソルダは特別気にした様子もなく、淡々と馬車に荷物を積み込んでいる。


「歩きはきつい。こう見えても俺は老いぼれだ」


カダルは自身を指差して言った。


「こちとら魔法適性がてめぇらより高い分、体力には自信がねえ。そういう人種なんだ」

「そうなのか?」

「臓器の問題だ。焦臓を強化したがために、他を弱くしたみたいなもんだ」


人種……と言ったか?

魔族などと言われているが、やはり人と変わらない認識でいいのか?


「なるほどな。じゃあ、馬は置いていこう」


ハーレイがギョッとした顔でセトを見た。


「坊っちゃん!簡単に言いますけどね、馬ってお高いですよ!知ってます!」


そうだ。

簡単に切り捨てられるほど安いものではない。


「維持費が高くつくなら、初期費用が高くても捨てるしかないだろう?」

「それなら!せめて売るなりして金にしないと!」


ハーレイがギャンギャンと騒いでいるが、セトはもう聞く耳を持っていない。

その頭の中は違うことでいっぱいだった。


(馬のいらない鉄の馬車が走るなら、汽車なりなんなりは既に技術的には存在するはず。それなら、蒸気機関や疑似的なエンジン機関は?)


馬車の改造のことで、ハーレイなど置き去りになっていた。

セトの頭の中では、すでに馬車は馬車ではなくなりつつある。


「カダル。原典派より原理派の方が技術的には進んでるんだな?」

「そりゃそうだ。原初の命からもらった恵みは最大限に利用しねぇと」

「じゃあ、砂漠に入る前に、原理派が多い街に一度立ち寄りたい」

「あるぞ。三つ。だが、その全てが遠回りになる」

「いい。馬車を改造する」


ソルダは何か言いたげにこちらを見ている。


「馬を置いていくんですか?愛着が湧いてるんですが……」

「邪魔になる」

「一頭だけでもダメですか?」


三人は顔を見合わせた。

どうにも引き下がりそうにない。


「……じゃあ一頭だけ残すか」


ソルダの顔を見て、根負けしたセトが言った。


「坊っちゃん!」


ハーレイが驚いた顔をする。


「いいだろう?別に」

「だったら二頭──」

「一頭でいい」

「なんでです?」

「必要になったらまた買えばいい」

「だから馬は高いんですって!」


その四日後、セトたちは初めて原理派の街に足を踏み入れた。

街の入口から、これまで見たことのない機械がいくつも並んでいる。

セトは思わず足を止めた。


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