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生贄の英雄 セト・ウォルカの物語  作者: 下山四郎
Disc01:幼少期─ストラス山の少年─
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第11話 魔物の解剖



ケメルの家で火柱が立った日。

セトはケメルに一つお願いをしていた。


「一緒に、この魔物を調べたい」


それは前日にゼラムが倒した魔物。

昨日から、セトの頭から魔物のことが離れなかった。

これを調べるのを、ケメルと一緒にやろうというのだ。


「これはさ、アンタ。昨日の魔物だろう?」

「うん」

「何を知りたいんだい?」

「わからない」

「わからない?」

「でもね、僕の知らないことがたくさん詰まってる」


セトは魔物の腹を指さした。


「たぶん、僕はこの魔物の身体の作りを知りたいんだと思う」


セト自身、なぜそこまで知りたいのかは分からなかった。

ただ、知らないままでいることが、少しだけ気持ち悪かった。

それは単純な興味というより、未知の物への知識欲に近いものがあった。


(土台になる教育が終わった子と話をしてるみたいだねぇ)


その様子にケメルは違和感を覚えた。

庭先に持ち込まれた魔物の遺骸を見て、体の作りを知りたいという少年。

そもそもそれを知ってなんになるのか?


「それで?どうやって調べるんだい?」

「解体していきたいんだ」

「アンタがするのかい?」

「させてくれる?」


一瞬だけケメルは迷ったが、ケメル自身にも興味があった。


(この子は、どこまで行くだろうね?知りたいってだけで、どこまで突き進むかね)


「いいよ。やってご覧なさい」

「本当に?」


セトの顔がぱっと明るくなった。


「うん。本当にだよ」

「ありがとう!」


セトはすぐに魔物の前へしゃがみ込んだ。

その目には、昨日までの遊び道具を見るような無邪気さがあった。

ただ一つ違うのは、その目の前にあるのが生き物の死骸だということだった。


ケメルはそんなセトの様子を見て、手をパンッと叩いた。


「そうなると、まずは血とかそういうものが口に入らないように布を顔に当てないとダメだねぇ」


ケメルは家に戻り、バンダナくらいの大きさの厚手の布を持ってきた。


「これで口を覆いなさい。できたら、始めようか」


メス……

薄い刃……

指先から2cm程度の……

風は……難しいな……

氷を芯にする……

氷は……振動を止めるだけ

薄い氷……鋭利な……


人差し指の先に、薄い氷の刃が伸びた。


「……氷?」


ケメルが思わず呟く。

セトは答えず、その刃を魔物の腹へ当てた。

皮膚に刃先を入れ、ゆっくりと切り開いていく。


「……なんでそんな形にしたんだい?」

「切りやすいから」

「いや、そうじゃなくてねぇ……」


ケメルは言葉を止めた。

普通なら、氷を出すことそのものに意識を使う。

ましてや、それを刃物として加工するなど考えもしない。

だがセトは違った。

魔法を使っているというより、魔法を道具として扱っている。


(なんだい?この子は?解体っていうから、バスバス切るのかと思ったら……こりゃ解剖だねぇ)


ケメルはセトの様子を見て、不思議な子、規格外の子、それらを超えたものを見たような気分になった。


「これ、何?」

「胃だねぇ。食べ物を消化するんだよ」

「じゃあ、これは?」

「肺だよ。空気を取り込む」

「じゃあ魔素は?」

「魔素は胃の辺りにある濃い赤茶色のがあるだろう?」

「これ?」

「ん?それが肝臓。その右側にくっついてるのがあるだろう?」

「これ?」

「そうだね。それが焦臓。魔素を処理するのさ」


セトは一人考え込んだ。

それは全く知らない臓器だったからだ。

だが、その配置は妙に記憶にある。


(焦臓ってなんだ?)


「その焦臓から繋がってる場所があるだろう?上にあるのが横隔膜」

「これ?」

「うんうん。それと合体してね、肺に繋がってる。下はね、管があるだろう?血管と束になって腸に繋がってる」


(なんだ、これ?)


知らないはずなのに、身体の中に臓器があること自体には違和感がなかった。


「肺に繋がるのを上焦、腸に繋がるのを下焦、肝臓に繋がってるのが中焦。全部合わせて焦臓っていうのさ」

「この焦臓は何をしてるの?」

「魔素を血に馴染ませるんだよ」

「馴染ませる?」

「魔素には毒があるからねぇ」


(毒素の処理は肝臓がメインのはずだ)


「肝臓とは違うの?」

「肝臓は普通の毒を処理する。焦臓は魔素を処理する。似てるようで違うんだよ」


(魔素をメインで処理する臓器か)


セトの視線は、もう魔物の死骸全体ではなく、その体内にある焦臓へ向いていた。


「じゃあ、なんで魔物はこんなに魔素が多いの?」

「焦臓が強いからさ」

「父さんより?」

「……たぶんねぇ」

「母さんより?」

「そりゃあ、ずっと強い」


(でも、外に出せないんだ……内側で使うだけ?もったいないな)


「じゃあ僕は?」

「……さあねぇ。アンタの魔法はちょっと違いそうだ」


セトはその言葉の真意がわからなかった。


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