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生贄の英雄 セト・ウォルカの物語  作者: 下山四郎
Disc01:幼少期─ストラス山の少年─
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第10話 ケメルの魔法初級講座



魔物騒動の翌日、セトはケメルの家を訪ねた。


「いい?ちゃんと挨拶するのよ?あの人は昔、王様の軍の隊長だった人なんだから」


エーコは、何度も繰り返しセトに言い聞かせた。

そのたびに、なぜか拳が握られる。

昨日の夜、父親の脇腹に二度も拳を叩き込んだのを見ているセトは、黙って頷いた。


「うん」

「ちゃんと聞いてる?」

「聞いてる」

「よろしい」


そうやって送り出されたセトは、ちょこんとケメルの家の食卓の椅子に座り、ケメルの講義を受けている。


「いいかい?セト。魔素は空気からも吸える。食べ物からも吸収できる。そして、アンタが吐き出す息とか汗とか、そういうものに混ざって外に出てくる」


(代謝?なのかな?)


「もちろんおしっこなんかにも混ざるよ。魔素ってのはね、便利なんだけど、毒なんだ」

「なんで毒なの?」

「魔素の毒はね、外に出さないと身体の中で固まるんだ。最初は小さな粒だね。それがそのうちに大きくなって、血の流れを止めるんだ」

「血の流れ?」

「アンタの体に血管があるだろう?そこには血が流れてる。魔素も溶けて流れてるんだよ」

「じゃ、魔法は使わないといけない?」

「使わな過ぎは良くないねぇ」


(母さんは?あんまり使ってない)


「母さんは、あんまり使ってないよ」

「エーコは別さ。あの子は魔素を血の中に溶かすのが少し苦手なんだ」

「なんで?」

「そういう体質なんだよ」


(病気?なのかな?)


「父さんは?」

「ゼラムはね、魔素を外に出して使うんじゃないんだ。身体の中で使ってしまうんだよ」

「なんで?」

「これも体質さ。身体に入れられる魔素が少ないからね。外に出すより、身体の中で使い切るようにしてるのさ」


(体質?僕は違うけどな)


セトは父と母の話を頭の中で整理した。

母は外に出すのが苦手。

父は身体の中で使う。

では、自分はどうなのだろう。


「じゃあさ、魔物は?」

「魔物?」

「うん。昨日の魔物は魔法を使ってなかったよ。でも、母さんは体の中に魔素が多いから食べられないって」

「あぁね。アンタはよく見てるねぇ。魔素は確かに多いよ。中には魔法を使う魔物もいる。でも大抵の場合、ゼラムみたいに内側で使い切るのさ」

「なんで?」

「魔法を使っていろいろやるより、体を強くしたほうが狩りはしやすいからねぇ。たぶんそういうことだよ」


セトは顎に手を当てて考えた。


(代謝なんだろうな?でも、そんな代謝機能知らない)


その思考がどこから来るのかはセト自身も知らない。


「じゃあ、魔法って身体の中で使うか、外に出して使うかの違いなの?」

「大雑把に言えば、そうだねぇ」

「じゃあ僕は?」

「……さあねぇ。ただ、一つ言えることはね、慣れないことをしようとすると、魔素は安定しないってことさね」


ケメルは人差し指を立て、セトにここからが重要という仕草をした。


「慣れないことをしようとすると、あれもこれもといろいろ考えるだろう?そうなると魔素は素直に反応しない。やることが多いからね」

「じゃ、どうするの?」

「魔法を使う人はね、特に得意なものをだいたい1人一つか二つ、なんにも考えなくても使えるように訓練するのさ。軍に入るようなら、尚更ね」


軍。

それが何かは知っている。

軍隊。

脅威から国を守り、他国に侵攻する組織。


「軍があるの?」

「あるよ。ここは辺境だからね、知らなくても仕方ない。ここはマクレラン王国の端の端。国境はストラス山で隔てられてるからね。魔物はともかく、他国が攻めてくる土地でもないのさ。軍がわざわざ駐在するような場所じゃないんだよ」


マクレラン王国。

知らない単語だった。

自分がどこかの国の国民という意識がない。


「じゃあ、実際に魔法を使ってみようか」


そう言うと、ケメルはセトを外に連れ出した。

外はもうすぐ太陽が中天に差し掛かる頃合い。

昨日の雨とは打って変わっての快晴だ。


「魔素の流れは、わかるかい?身体の中、体の周り、そのまた外側」


セトは意識を集中させる。


「身体の右の脇腹辺りを意識するといい」


身体の右の脇腹……

肝臓、かな?


「身体に入った魔素はそこから血に混ざる」


肝臓から、血に混ざる……

全身に……


「魔素は汗や息に混ざって外に出る」


血管から、汗……

肺から、息……


「火を出してみようか?」


火……

燃焼……

可燃物、酸素、熱……

酸素は空気の中……

可燃物は…なんでもいいか……

必要な熱を加える……

原子の運動……

摩擦熱……振動だな……


セトが指を指すと、庭先に火柱が立った


「……セト。アンタ、今なにが見えてた?」


これは魔法を使いこなす、という形ではない。

少なくとも、ケメルが知っている魔法の使い方ではなかった。


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