第108話 街の変わり者
「ホクウ教って不思議な宗教だな」
セトは宿でそう呟いた。
彼らは日の入りの時に太陽に感謝を捧げるため、全員が沈む太陽に向かって祈りを捧げていた。
「まぁいろんな考え方があるんじゃないですかね?」
ハーレイは興味がないようだ。
「どういう思想かはわかりませんが、自然信仰に近いのではないですか?」
ソルダもあまり興味はなさそうだ。
「自然信仰ね。その割には原初の命だけなんだろう?信仰するのは」
「坊っちゃんね、信仰やらなんやらは敬虔な方が考えたりすればいいの。俺らみたいなのは、とりあえず言われた通りにしておけばいいんです」
ハーレイはまたテキトーに行って寝ようとする。
ソルダは外の様子を窓から眺めていた。
翌日、セトは教会を訪ねる。
「おはようございます。テルン司祭」
「おはようございます」
「昨日、日の入りで皆さん祈っていたようですが……」
「あぁ、あれはホクウ教の祈りですよ。太陽に感謝して、明日も昇ってきていただけるようにと」
いや、天体の自転と公転がある限り必ず昇るのだが。
そんなことを思ったが、セトは口に出さない。
「今日の日の出の時も、彼らはみんな昇って来たことに感謝の祈りを捧げてますよ」
「そうなんですか?」
「ええ。だってこの世の全ては原初の命からの枝分かれです。その中で最も遅く生まれたのが人。つまりは末弟。兄に助けて頂いてるので、感謝してるんです」
セトは「なるほど」と返して、わかったようなわからないような気分になった。
進化論的に見れば、太陽と生物が同一進化系統に組み込まれるはずがない。
(神話の解釈がそうだから、ってことだろうな)
「それはそうと、今後の魔族領の案内人をご紹介しますね」
テルンは外に出るようにセトたちを促した。
「魔族なんですが、ラメント教の信者なんですよ」
「改宗はできるんですね」
「それはもう。信仰は自由だと思いますよ」
街の中心部から離れ、路地を進んでいく。
決して暗い道であるとか、湿気があるということもない。
綺麗に整備された細い道だ。
街外れにある一軒の家が目の前にある。
そこは膝ほどに伸びた草が生い茂る中に立てられた家。
「ここです」
「ずいぶん他の家と違いますね?」
「この街は原典派が多いですからね。みんな感謝を捧げて住みやすく整備します。彼の場合は、その習慣すら捨てて改宗しました。そして、極端に何もしなくなった例ですね」
セトは嫌な予感しかしなかった。
「ラメント教でもちゃんと住心地良くする戒律などはあるんですがね、彼は何か勘違いをしたようなんですよ」
タハハ、と困ったようにテルンは笑った。
「ただ彼は原理派にも顔が利きます。今回の旅には彼が必要ですよ」
テルンはドンドンと乱暴にドアを叩いた。
「カダル!カダル!いるんだろう!お客さんだ!」
中から返事はない。
「カダル!出てこい!」
声のトーンは借金取りか押込みだ。
さらに手で叩くだけでは済まなくなり、足でドアを蹴る。
やがてギギギと耳を塞ぎたくなるほどの音を立てて一人の男が出てきた。
「うるせぇよ。客?誰だよ?」
そこには白髪頭に、白い髭を蓄えた男性が立っていた。
「紹介します。カダルです」
テルンはニッコリと笑ってセトのほうを向いた。




