第107話 人と魔族
船から下りたセトたちは、教会へと向かった。
魔族領にもラメント教はある。
規模はマクレラン王国などの、ラメント教を国教としている国とは比べられないほど小さいが。
「なんか偉くこじんまりした教会だ」
それがセトの感想だった。
石造りの建屋。
第一印象はそれ。
「まぁ、魔族の信仰は古宗教ですからね」
ソルダの答えに、セトは「ふぅん」と返すだけだ。
宗教に関しては、あまり興味はない。
積極的に信仰しているわけでもない。
「まぁ、入ってみたらいいんじゃないですかね」
ハーレイが教会のドアを開いた。
ギギィっと酷く傷んだ音を立ててドアが開く。
(油くらい差したらどうなんだ?)
それくらい傷んでいる音だった。
その音に反応したのか、講壇にいる人物がこちらを向いた。
「おや?どなたでしょうか?」
その人物はセトたちを見て不思議そうな顔をした。
セトは相手の立場がわからないため、とりあえず講壇の前で跪く。
「へネス教国より参りました。助祭のセト・ウォルカと申します。後ろに控えるのは──」
「あ!あなたがウォルカ助祭ですか!どうぞ!そう畏まらず!」
セトが従者を紹介しようとすると、講壇の人物は立ち上がるように言って、セトの肩に手を置いた。
「はじめまして。私はテルン。この教会の司祭です」
セトは立ち上がり、再び従者の紹介をする。
「ありがとうございます。セト・ウォルカです。後ろの二人は、副助祭のハーレイ・オクスウェン、侍祭のソルダ・ストークスです」
テルンは二人にも「はじめまして」と言って握手をしていく。
「お待ちしていましたよ。へネスの方からウォルカ助祭の派遣という知らせは20日前に来てましたからね」
「…………遅くなりまして申し訳ありません」
セトは何か責められた気分になった。
「いや、いいんですよ。なんでも東の奥に向かわれるとか?」
「はい。その予定です」
「一応目的の場所だけはこちらも伺っております。案内人も用意しておりますので、今日はこちらに一泊なさってはいかがですか?」
そう言われてセトは教会を見渡した。
「あ、教会ではないですよ?宿にです。私だってこんなボロ屋には住んでません」
「あ………すいません」
「いいんですよ。ここは魔族領です。ラメント教は少数派です。魔族はホクウ教という古い宗教を信仰していますからね」
ホクウ教?
聞き馴染みのない宗教だ。
「ホクウ教というのは?」
「ざっくりと簡単に言うと、第一章ですね。第二章がラメント教です」
テルンの説明によると、原初の命やそのあたりの神話は同じのようだ。
ただ、四英雄が出てくる手前までの神話を信仰するのがホクウ教、四英雄が出てくるところも含めて信仰するのがラメント教ということらしい。
(旧約と新約みたいなものか)
「まぁ、彼らにも原典派や原理派という違いがありますがね」
テルンは教会のドアを開けた。
「案内人の紹介は明日にしましょう。宿に案内します」
教会の外に出て宿まで歩く。
その間に行き交う人々は魔族なのだろう。
だが、セトは人にしか見えなかった。
「彼らは魔族ですか?」
「そうですよ」
「人ではないんですか?」
「どうでしょうね?でも、魔族は魔族ですよ」
セトには彼らがなぜ魔族として呼ばれているのか、いまいちわからなかった。




