第105話 東方派遣
「助祭セト・ウォルカ。ただいま復命しました」
セトはオルガ枢機卿の前に跪き、挨拶をする。
オルガはどうやら不機嫌そうな雰囲気だ。
講壇にはもう一人の人物がいた。
壮年の男性だ。
「里帰りの許可を出して44日か。期限いっぱい使いおって……」
はて?一日残っているが?
セトにはそのような大人の考えはできない。
「はい。有り難く頂戴いたしました期間を有意義に使わせて頂き、誠にありがとうございます」
それは本心からの感謝だったが、オルガには皮肉めいて聞こえていた。
「お前は気を使うということも覚えろ。誰にもそれを教わっていないことが不思議だ」
気を使って一日早く戻ったのだが……
もっと早くということか……
それならそもそもの予定を60日とかにしてくれても良かったのに……
「ウォルカ助祭。お前の教育はとりあえず先送りだ。まずは東方に向かうとして、先に東方の祭壇を管轄する大司教を紹介する」
講壇のもう一人の男性が前に出た。
「東方の祭壇五基を管轄する大司教のラバエド・トライグルアだ。君の話は聞いている。よろしく頼むよ」
その男性、ラバエドの物腰は、オルガよりもかなり柔らかい印象だった。
「大司教、あとはそっちで対応してくれ」
「はい。承知しました」
オルガは部屋から出るように指示し、セトたちはラバエドについて部屋から出ていく。
ラバエドは歩きながら話を始めた。
「早速だけどね、もう船は準備できてる」
「船ですか?」
「ん?船だよ。だってこれから向かってもらう東方の祭壇は魔族領だからね」
「魔族領ですか?」
階段を下りる。
どこかへ案内しているようだ。
「そうだよ。東方の祭壇はね、魔族領に三基、獣人の住む地域に一基、あとは東方の人が住む地域に一基なんだ」
「遠いんですか?」
「かなりね。この大陸は東に広いからね。どうしても東方の祭壇はかなりの遠方になる」
セトとラバエドの会話に従者二人は立場上参加できない。
「船以外の移動はできないんですか?」
「現状ではかなり難しいかな?」
従者の二人は、これから起こるセトの船酔いを考えてウンザリしていた。
「どうにか、陸路では……」
セトのその希望は簡単に消え去ることになる。
「リニオ帝国がへネス教国と魔族領の間にあるリキイル連合国に侵略してね。戦争が長期化してるから陸路は使えないんだ」
リニオのせいか……
セトはリニオ帝国がさらに嫌いになった。
「戦争している地域を縦断していくわけにもいかないだろう?」
確かにそうなのだが、そうなのだが!
「船ですか……」
教会を出て、港の方へと誘導されていく。
「君は船酔いが激しいんだよね?」
「はい」
「だいたい20日くらいだと思うからさ、慣れるよ」
慣れないから嫌いなのに……
「慣れますかね?」
「大丈夫だと思うよ」
セトは後ろを振り返った。
従者二人は揃って渋い顔をしていた。
船着き場に到着し、泊まっている船を見る。
また今回も一段と大きな船だ。
「大きいと揺れないんですか?」
「海の上を進むからね。揺れない船はないよ」
「そうですよね……」
セトは嫌々ながら船に乗り込み、魔族領に出発した。




