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生贄の英雄 セト・ウォルカの物語  作者: 下山四郎
Disc02:少年期─魔族領─
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第102話 故郷の夜空



セトは川から水を汲んで墓の掃除をする。

ラキストやラマクらかつての住人たち。

初めて魔法を教えてくれたケメル。

両親のゼラムやエーコ。

そしてキセム。


その様子をハーレイとソルダはただ眺めていた。


「これは俺一人でやりたい」


セトが言い出したことだった。

墓を磨き、花を添える。


(やっと帰って来ました。また発つけど、絶対帰って来ます)


風に靡く草の音だけが静かに流れる墓前で、セトは手を合わせた。


宗教としてはラメント教とは全く違う作法だ。

だが、それを見ていたハーレイとソルダがそれを指摘することはなかった。

彼らにとってセトの墓参りは見慣れたものだったし、セトが祈っているように思えたからだ。


「姉さんに挨拶に行こう」


セトはストラス山を登る。

相変わらずのエスカレーターだ。


しばらくすると岩窟院が見えてくる。

岩窟院の前にはアメリアが立っていた。


「おかえり」

「ただいま」


アメリアはセトの手を取ろうとした。

セトはそれを拒否するように手を引いた。


「なによ?」

「別に……」


セトは照れたように視線を外す。


「まぁいいわ。アンタいつまでいれるの?」

「一週間くらい」

「そう。じゃ、ゆっくりしていきなさい」

「うん」


その様子をハーレイとソルダがニヤニヤしながら見ていた。


「アンタ先にマールさんのお墓に挨拶行きなさいよ」

「わかってる」


二人は岩窟院の中に消えていった。


その日の晩、セトはアメリアに相談をしていた。


アメリアは祭壇の巫女だ。

なにか知っているかもしれない。


「子どもの頃から見る夢が、鮮明になったように感じる」

「どんな夢よ?」

「昔はあんなに鮮明に聞こえなかった。もっとゴチャゴチャしたものだった」


そうしてセトはあの夢のことを話した。


「それってさ、ヤマザキの記憶じゃない?」


アメリアが言う。


「どういうこと?」

「ヤマザキって英雄たちと一緒に封印の亜空間に漂ってた時期あったはずよね?その時に聞いたことじゃない?」

「意識があったってこと?」

「それは私にはわからないけどさ、アンタその記憶を引き継いだんじゃないの?」


山崎はセトへの知識の転写後に死亡して、岩窟院の墓地に埋葬されている。


(あれは、英雄たちの声?)


涼しくなりだした風は、ストラス山に当たってウォルカに吹き下ろす。

セトは岩窟院の祭壇に立ち、空の月を見上げていた。


この日の風も、何も語らない。

セトの中に、まだあの夢の答えはなかった。


「そういえば……」


セトは一度荷物のもとに戻り、持ってきた荷物を漁る。

かつての出征時にアメリアからもらった手紙。

まだ読むことができずにいたものだ。


「もう結構前の手紙だし、話題にもなってないけど」


セトはアメリアからの手紙を開いて読む。


それは短い内容だった。

でも、わかりやすいものだった。


『戦地に向かうことが避けられないなら、せめて生きて帰れ。

死ぬ事は許さない。

そのままでもアンタは自慢の弟だ』


「まぁ、生きて帰ってきたしね」


セトは手紙をしまうと再び外に出た。


「相変わらず綺麗な空だな」


夜空の星たちは、いつもと同じように綺麗に輝いていた。


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