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瞳に映る坂の街  作者: 橘かすみ


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10

教会で湊と別れたあとも、灯の考えは変わらなかった。


人はひとつの言葉で死なん。

そう言われても納得はできない。


自分が言った。

両親が出かけた。

いなくなった。


その順番は事実だ。


部屋に戻り、もう一度手紙の束を開いた。


一番下に挟まっていた走り書きを読み返す。


『子どもは生かされた。

あの子が、背負わなくてよい重さまで背負わぬよう祈る。』


事故だったなら、この言葉はおかしい。


背負わなくてよい重さとは何なのか。


灯は翌日、叔母の家を訪ねた。


仏間で向かい合う。


「事故じゃなかったん?」


叔母はすぐに答えなかった。


「私が海を見たい言うたけん、行ったんやろ?」


灯は続ける。


叔母はゆっくり首を振る。


「違う」


短い返事だった。


「灯が言わんでも、あの人たちは行くつもりやった」


灯は意味を考える。


「どういうこと」


叔母は言う。


「借金があった。事業がうまくいかんやった」


灯は何も知らなかった。


「灯には言わんって決めとった」


言葉がうまく入ってこない。


「……心中やったと?」


叔母はうなずく。


「灯は巻き込まれただけや」


灯はすぐに否定できなかった。


今までの考えと合わない。


「でも、私が言った」


思わず出る。


叔母ははっきり言う。


「関係ない。あの人たちは、もう決めとった。灯はどうしても連れてけんやったらしい。」


牧師が止めたこと。

灯を連れていくことを迷ったこと。

それでも夜に出たこと。


叔母は途切れながら話した。


「牧師さんが言うたんや。

あの子には背負わせんでよかって。もし心中ってなったら街でも住みにくくなる田舎やったし…公式の理由としては海難事故にしたこうってなったんよ」


あの走り書きの意味が、そこでやっとつながる。


灯は黙った。


何年も、自分の一言が原因だと思ってきた。


それが違うと言われても、すぐには切り替えられない。


「私のせいやなかった?」


確認する。


「違う」


叔母は強く言った。


灯はうなずく。


納得とは少し違う。

ただ、否定はできない。


叔母の家を出たあと、灯は教会へ向かった。


石段の下に湊がいる。


「聞いてきた」


灯は言う。


「私のせいやなかったらしい」


らしい、という言い方になる。


まだ自分のものになっていない。


「両親は、最初から決めとったって」


湊は静かに聞く。


「私が海を見たい言うたけんやない」


少し間があって、湊が言う。


「そうか」


灯は海を見る。


自分の中の順番が、全部正しかったわけではないとわかる。


「生き残ったんやなくて、生かされたんかもしれん」


言ってみる。


まだしっくりはこない。


湊は教会を見上げる。


「俺も、そうやろうか」


灯はうなずく。


湊は石段を上がる。


その後ろ姿を見ながら、灯は思う。


自分が握りしめていた考えは、思っていたほど確かなものではなかったのかもしれない。


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