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黄金の約束  作者: ハイエント
第一章 黄金の屋敷

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第9話 見覚えのある街


 久世さんが出ていったあと、俺は改めて部屋の中を見回した。


「……すげえな」


 一人で使うには、やっぱり広すぎる。


 大きなベッドに、ソファとテーブル。


 壁際には机があり、その横には大きな収納まである。


 大学の寮で使っている俺の部屋なら、何部屋入るだろう。


 少なくとも、同じ大学生が使う部屋とは思えない。


「前も三階だったって言ってたけど……」


 あらためて部屋を見回す。


 やっぱり、まったく覚えがない。


 昔もこんな広い部屋だったんだろうか。


 どんな家具が置いてあったのかも。


 どんな壁だったのかも。


 何一つ思い出せなかった。


「……まあ、改装したって言ってたしな」


 正確には、以前とは少し造りが変わっていて、手を入れたところもあると言っていた。


 十年も経っているんだ。


 部屋の中まで大きく変わっていたとしても、おかしくはない。


 それに、当時の俺はまだ子供だった。


 覚えていないだけなのかもしれない。


 そう思いながら、俺は部屋の中を一通り確認してみた。


 洗面台の蛇口をひねれば、普通に水が出る。


 照明も問題なくついた。


 コンセントも使える。


 空調まできちんと動いていた。


「ずっと使ってない家って感じじゃないな……」


 もっと埃っぽかったり、どこか古びていたりするものだと思っていた。


 でも実際には、今すぐここで生活しても何の問題もなさそうだ。


 親父たちは、この屋敷をずっと維持しているらしい。


 十年近く俺が来てもいないのに。


「何のためなんだろ」


 思わず呟いた。


 こんな大きな屋敷だ。


 庭の管理だけでも相当な手間がかかるだろう。


 建物そのものを維持するにも、金がかかるはずだ。


 たまに家族が使うだけの場所に、そこまでするものなのだろうか。


「……まあ、金持ちの考えることなんて分かんないか」


 自分の家のことなのに、そんなことを思う。


 俺は窓際へ歩いていった。


 カーテンを開ける。


「……あ」


 三階から見下ろす景色に、思わず声が出た。


 眼下には、さっき歩いてきた庭が広がっている。


 上から見ると、その広さがよく分かった。


 綺麗に刈り込まれた植木。


 整然と並ぶ花壇。


 噴水。


 その少し先には、庭を飾るようにいくつもの像まで置かれている。


 門から屋敷まで続く長い石畳も、ここからなら一望できた。


「こんなに広かったんだな……」


 その向こうには、丘の下へ広がる稲田の街。


 住宅街。


 遠くに見える駅。


 さらにその先まで続く街並み。


 俺はしばらく黙って、その景色を眺めていた。


 そして。


 少しずつ、昔の記憶が蘇ってきた。


「……そうだ」


 これだ。


 この景色だ。


 小さい頃。


 俺は窓から何度も、この街を見下ろしていた。


 どの部屋だったのか。


 どんな窓だったのか。


 そこまでは思い出せない。


 でも、この景色には間違いなく見覚えがある。


「やっぱり、ここだったんだ」


 屋敷そのものは、俺の記憶とはどこか違う。


 門も。


 庭も。


 中の造りも。


 この部屋だって、まったく覚えていない。


 それでも。


 窓の外に広がっている景色だけは、記憶の中にあるものと同じだった。


 だったらやっぱり、俺の記憶が曖昧なだけなんだろう。


 十年も前のことだ。


 久世さんも、屋敷には手を入れたところがあると言っていた。


 昔と同じに見えなくても、不思議じゃない。


「考えすぎか」


 俺は窓から離れ、ベッドに腰を下ろした。


 身体が沈み込む。


「うわ、柔らか……」


 寮のベッドとはまるで違う。


 そのまま少しだけ横になりたい気分になった。


 でも、今日はみんなで集まっている。


 久世さんにも、一階のエントランスに戻るよう言われていた。


 何となくスマートフォンを取り出して時間を見る。


「……え?」


 思っていたより時間が経っていた。


「やば」


 俺は慌てて立ち上がる。


 荷物を適当にまとめ、スマートフォンをポケットへ入れた。


「みんなもう戻ってるかも」


 最後にもう一度だけ窓の外を見る。


 十年前と変わらない、稲田の街。


 それを確認してから、俺は急いで部屋を出た。

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