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黄金の約束  作者: ハイエント
第一章 黄金の屋敷

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第10話 最後の確認


「やば……」


 スマートフォンの時間を見た俺は、慌てて部屋を飛び出した。


 部屋の中を見て回ったり。


 窓から昔と変わらない景色を眺めたり。


 十年前に家族でここへ来たときのことを考えたり。


 そんなことをしているうちに、思っていた以上に時間が経っていたらしい。


「みんなもう戻ってるよな……」


 三階の廊下を足早に進み、階段を下りていく。


 これだけ大きな屋敷だから、最初は迷うかとも思った。


 でも、意外と道は分かりやすい。


 階段をそのまま下りれば、一階のエントランスまで戻れるようになっていた。


 急いで一階まで下りる。


 エントランスへ向かうと――。


「あ、来た」


 千夏の声がした。


「遅い!」


「ごめん!」


 見ると、俺以外はもう全員集まっていた。


 高志。


 奈緒。


 千夏。


 大野先輩。


 神谷先輩。


 そして、少し離れたところに久世さんも立っている。


「何してたの?」


 千夏に聞かれ、俺は頭をかいた。


「いや、ちょっと部屋の中見たり、外の景色見たりしててさ」


「それだけでこんな遅くなる?」


「昔のこととか、いろいろ考えてたんだよ」


「物思いにふけってたのか、若様」


 神谷先輩が笑う。


「若様は忙しいんですよ」


 高志まで乗ってくる。


「何がだよ」


「十年前の思い出に浸ったり」


「うるさいな」


 みんなが笑った。


「怒ってる場合じゃないよ」


 千夏が言う。


「こっちはお腹空いてるんだから」


「結局それかよ」


 奈緒が笑った。


「だって食事用意してあるって言ってたでしょ?」


「正直だなあ」


「奈緒だってお腹空いてるでしょ」


「まあ、ちょっと」


 また笑い声が上がった。


「それにしても」


 大野先輩が辺りを見回す。


「部屋もすごかったな」


「ですよね」


 奈緒がすぐに頷く。


「私、一人であんな広い部屋に泊まったことないです」


「私も」


 千夏も言う。


「使用人さんが部屋まで案内してくれて、設備まで全部説明してくれたし」


「ホテルみたいだったな」


 高志が言った。


「いや、下手なホテルよりすげえだろ」


 神谷先輩が笑う。


「掃除とか自分たちでやらなきゃいけないと思ってたけど、全然必要なさそうだな」


「俺もそう思ってました」


 俺が答える。


 門には何台もの監視カメラ。


 広い庭は隅々まで綺麗に手入れされている。


 屋敷には何人もの使用人がいて。


 部屋は、今すぐ生活できそうなくらい整っていた。


 俺が想像していた「ほとんど使っていない別荘」とは、何もかも違っていた。


「そうだ」


 俺はみんなを見る。


「俺も部屋でいろいろ見てきたんだけどさ」


「うん?」


 高志が首を傾げる。


「やっぱりここ、うちの屋敷だったわ」


 一瞬。


 みんなが黙った。


 それから。


「……まだそれ言ってたの?」


 奈緒が呆れたように言った。


「いや、違うって」


「何が違うのよ」


 千夏まで笑い出す。


「最初からお前んちだろ」


 高志も言う。


「だから、それを確認してたんだよ」


「何で自分の家を自分で確認するんだよ」


「俺だって十年ぶりなんだから仕方ないだろ!」


「またそれかよ」


 高志が笑う。


「でも、外見たら思い出したんだよ」


「何を?」


「景色」


 俺は三階のほうを見上げた。


「丘の下の街とか、駅の見え方とか。小さい頃、窓から見てた景色だった」


「ああ」


 高志が頷く。


「じゃあ、やっぱり間違いないじゃん」


「うん。たぶん」


「たぶん!?」


 高志が思い切り突っ込んだ。


「そこはもう言い切れよ!」


「いや、建物の中は全然覚えてないんだって」


「十年前だろ?」


「そうだけど」


「それに久世さんも、昔ここに来たこと覚えてたんでしょ?」


 奈緒が言う。


「ああ。親父と母さんと、ひなのことまで覚えてた」


「じゃあ決まりじゃん」


 千夏が言った。


「久世さんも知ってる。弘も景色を思い出した。それでもまだ『たぶん』なの?」


「……そう言われると、そうだけど」


「自分の記憶まで信用してないのかよ」


 高志が笑った。


「別に信用してないわけじゃないって」


「十分してないだろ」


「十年前なんだから仕方ないだろ!」


「その言い訳何回使うんだよ!」


 また笑われた。


 俺も苦笑する。


 でも。


 確かに、みんなの言う通りだった。


 久世さんは十年前のことを知っている。


 ひなのことまで覚えていた。


 俺自身も、窓から見える景色を思い出した。


 これだけ揃っていれば、もう疑う理由なんてない。


 ……ないはずなんだけど。


 俺は少し離れたところにいる久世さんを見た。


「久世さん」


「はい、若様」


 久世さんがこちらを向く。


「あの……」


 そこで高志が嫌な顔をした。


「おい」


「何だよ」


「まさか、また聞く気じゃないだろうな」


「……一応」


「まだ聞くの!?」


 奈緒が吹き出した。


「今、自分で『やっぱりうちの屋敷だった』って言ったじゃん!」


「そうだけど、最後の確認!」


「何回目の最後だよ!」


 高志が笑う。


「久世さんまで昔のこと覚えてて、自分も景色思い出して、それでもまだ確認するのかよ」


「だから、これで本当に最後だって!」


「若様、慎重すぎるでしょ」


 千夏も笑っている。


 俺は笑われながら久世さんを見る。


「あの……本当にここ、勝田家の屋敷なんですよね?」


 久世さんは、少しも笑うことなく静かに頭を下げた。


「はい。こちらは間違いなく、勝田家が所有する屋敷でございます」


「……ですよね」


「はい」


 俺が頷いた瞬間。


「ほら!」


 高志が言った。


「もうこれで諦めろ!」


「何を諦めるんだよ!」


「疑うのをだよ!」


「だから疑ってないって!」


「じゃあ何で三回も四回も確認するんだよ!」


 また笑い声が上がった。


 奈緒まで肩を震わせている。


「これで明日また聞いたら笑うからね」


「もう聞かないよ!」


「本当に?」


「本当だって!」


「久世さん、明日も聞かれたらお願いしますね」


 千夏が言う。


「おい!」


 久世さんは少しだけ頭を下げた。


「承知いたしました」


「承知しなくていいです!」


 さらに笑われた。


 俺もとうとう笑ってしまった。


 これでいい。


 久世さんまでそう言うんだから、間違いない。


 俺が十年前のことをほとんど忘れているだけなんだろう。


 しばらくして笑いが収まると、久世さんが俺たちを見回した。


「皆様、お揃いになられましたね」


「はい」


「それでは、グレートホールへご案内いたします」


 久世さんが軽く頭を下げる。


 その後ろには、数人の使用人が控えていた。


「こちらでございます」


 久世さんを先頭に、使用人たちが歩き始める。


「やっと飯だ」


 千夏が嬉しそうに言った。


「お前、さっきからそればっかりだな」


 高志が笑う。


「いいでしょ。お腹空いたんだから」


「俺も腹減った」


「じゃあ人のこと言えないじゃん」


 そんな話をしながら。


 俺たち六人は、久世さんたちの後をついて歩き始めた。

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