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黄金の約束  作者: ハイエント
第一章 黄金の屋敷

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第11話 グレートホール


「全員お揃いになりましたね」


 久世さんが俺たちを見回した。


「それでは、グレートホールへご案内いたします」


「お願いします」


 久世さんの後について廊下を進む。


 その後ろには数人の使用人が続き、俺たちもそのあとをついていった。


 といっても、それほど長く歩いたわけではない。


 エントランスから奥へ進み、大きな扉の前で久世さんが立ち止まった。


「こちらでございます」


 使用人が扉を開く。


「……うわ」


 最初に声を上げたのは高志だった。


 俺も、思わず足を止めた。


 グレートホール。


 名前だけ聞いたときは、少し広めの部屋くらいを想像していた。


 でも、実際はそんなものじゃなかった。


 大宴会場と言ったほうが近い。


 天井は高く、部屋の奥までかなり距離がある。


 本気で人を入れれば、百人くらいは普通に入るんじゃないだろうか。


「広すぎない?」


 奈緒が辺りを見回した。


「これ、結婚式とかできそう」


 千夏も驚いている。


「できるだろ、これ」


 大野先輩が言った。


「その辺のホテルより広いんじゃないか?」


「弘」


 高志が俺を見る。


「こんな部屋あるの知ってた?」


「知らない」


「即答かよ」


「だから俺も今日初めて見たようなもんだって」


「自分の家なのに?」


「またそれ言うのかよ」


 みんなが笑った。


 そんな広い部屋の中央には、大きなテーブルが用意されていた。


 しかも――。


「おい」


 高志がまた俺を見る。


「料理、あるじゃん」


「……あるな」


 テーブルには、すでにいくつもの料理が並べられていた。


 肉料理。


 魚料理。


 サラダ。


 パン。


 ちょっとしたつまみまである。


 俺たち六人で食べ切れるのかと思うくらいの量だった。


 さらにテーブルの端には、酒の瓶まで何本も並んでいる。


「若様」


 高志が俺の肩を叩いた。


「俺たち、何も買ってこなくてよかったんじゃね?」


「そうみたいだな……」


「あの坂道、ビール二箱持って登った俺の苦労は?」


「途中から一箱俺が持っただろ」


「そういう問題じゃねえよ」


「知らなかったんだから仕方ないだろ」


「またそれか」


 奈緒と千夏は、すでに料理の近くまで行っていた。


「すごいね、これ」


「本当に食べていいの?」


 久世さんが穏やかに頭を下げる。


「もちろんでございます。大したものではございませんが、皆様でどうぞお楽しみください」


「いやいや」


 奈緒が笑う。


「これで大したものじゃないんですか?」


 神谷先輩が酒の瓶を一本手に取った。


「これも飲んでいいんですか?」


「どうぞ」


「足りなくなったら?」


「その際はお申し付けください。まだご用意がございますので」


「まだあるんだ……」


 神谷先輩が感心したように瓶を見る。


「いや、ちょっと待ってください」


 俺は慌てて止めた。


「酒はまだ駄目ですよ」


「何で?」


「何でって、今日は秋の登山計画を立てるために集まったんでしょう?」


「ああ、そうだった」


 高志が今思い出したように言う。


「お前が忘れるなよ」


「忘れてない。ちょっと屋敷がすごすぎて頭から抜けてただけ」


「それを忘れてたって言うんだよ」


 大野先輩が笑った。


「まあ、飯くらい先に食ってもいいだろ?」


「飯はいいですけど、酒飲んだら話し合いにならないじゃないですか」


「それはそうだな」


 神谷先輩も素直に酒の瓶をテーブルへ戻した。


「先に食おう。そのあと登山の話だ」


「ですよね」


「ある程度決まってから飲めばいい」


「そうしましょう」


「真面目だなあ、若様」


 高志が笑う。


「お前らが不真面目なんだよ」


 俺たちは席についた。


 久世さんと使用人たちは少し離れた場所へ下がり、必要があればいつでも対応できるよう控えている。


「じゃあ、いただきます」


 俺たちは料理へ手を伸ばした。


「うまっ」


 最初に声を上げたのは高志だった。


「これ何の肉?」


「知らないけどうまい」


「魚も美味しいよ」


 奈緒が言う。


「これも食べてみて」


「どれ?」


「こっち」


「本当だ」


 しばらくは、完全に料理の時間になった。


 俺も腹が減っていたから、結局かなり食べた。


 それから少しして。


「で」


 俺はテーブルにスマートフォンを置いた。


「そろそろ登山の話しましょうよ」


「お、そうだった」


 高志が言う。


「だから何で毎回忘れてんだよ」


「忘れてないって」


 大野先輩も頷いた。


「じゃあ、とりあえず日程から決めるか」


「そうですね」


「秋って言っても、いつ頃にする?」


「十月くらいじゃないですか?」


 神谷先輩が言う。


「紅葉も見たいよね」


 奈緒が言った。


「でも混むんじゃない?」


 千夏がスマートフォンを取り出す。


「場所にもよるでしょ」


「じゃあ、まず山を決めないと駄目じゃない?」


「それもそうか」


 ようやく本来の目的らしい話が始まった。


 候補をいくつか出して。


 日程を確認して。


 交通手段をどうするか話して。


 少なくとも最初のうちは、ちゃんと進んでいた。


 最初のうちは。


「そういえば、この肉本当にうまいな」


 大野先輩が急に言った。


「先輩」


「ん?」


「今、登山の話してます」


「分かってるって」


「じゃあ戻してくださいよ」


「でもこれ、お前も食ってみろよ」


「食べましたよ」


「じゃあうまいの分かるだろ?」


「分かりますけど!」


 みんなが笑った。


 そこからだった。


 話題が少しずつずれていった。


 大学のこと。


 サークルのこと。


 この屋敷のこと。


 部屋の広さ。


 料理のこと。


 使用人のこと。


 気づけば山の名前なんて、しばらく誰の口からも出ていない。


「ちょっと」


 俺はみんなを見る。


「また登山の話止まってますよ」


「まだ時間あるだろ」


 大野先輩が言う。


「ありますけど」


「焦るなって」


「先輩、さっきからそればっかりじゃないですか」


「固いなあ、勝田は」


 大野先輩が笑った。


 そのときだった。


 俺は、大野先輩の手元を見る。


「……先輩」


「ん?」


「それ、何ですか?」


「何って」


 大野先輩がグラスを見る。


「酒」


「見れば分かりますよ!」


 いつの間に開けたのか。


 グラスには酒が注がれていた。


「さっき飲まないって言ったじゃないですか!」


「一杯くらいいいだろ」


「その一杯から崩れるんですよ!」


「大丈夫、大丈夫」


「何が大丈夫なんですか!」


 大野先輩は楽しそうに笑いながら、グラスを傾ける。


「うまい」


「飲んでるし!」


 奈緒と千夏が笑い出した。


「弘、完全に引率の先生みたい」


「誰のせいだよ!」


 俺が大野先輩のグラスを睨んでいると、隣で高志が酒の瓶を手に取った。


「……お前」


「何?」


「何で持ってるんだよ」


「見るだけ」


「絶対嘘だろ」


「ラベル見てるだけだって」


「戻せ」


「まだ飲んでないだろ」


「『まだ』って言ったな?」


「気のせい」


 神谷先輩まで笑っている。


 その前にも、いつの間にか空のグラスが置かれていた。


「神谷先輩まで飲む気じゃないですよね?」


「俺はまだ何もしてないぞ」


「みんな『まだ』って言うのやめてくださいよ!」


 笑い声が広がった。


「勝田ぁ」


 突然、大野先輩が俺の肩に腕を回してきた。


「ちょ、近いですって!」


「お前、本当にいい後輩だなあ」


「もう酔ってるじゃないですか!」


「こんないい屋敷使わせてくれて、こんなうまい飯まで食わせてもらって」


「飯を用意したの俺じゃないですから!」


「細かいことはいいんだよ」


「細かくないですよ!」


「若様、ありがとうございます」


「先輩まで若様って呼ぶのやめてください!」


 みんなが笑う。


 俺は大野先輩の腕を肩から外しながら、大きくため息をついた。


「俺たち、宴会するために来たんじゃないんですよ」


「分かってるって」


「本当に?」


「ああ」


「じゃあ秋の登山計画、どうするんですか?」


「ちゃんとやるって」


「いつですか?」


「……もうちょっと食ってから」


「さっきもそれ言ってたじゃないですか!」


 また笑い声が上がった。


 俺はテーブルの上を見る。


 せっかく出した登山の候補。


 確認しかけていた日程。


 その横には、料理とグラス。


 話は、ほとんど進んでいない。


「……大丈夫かな」


 思わず呟く。


 この調子で。


 本当に今日中に、秋の登山計画なんて決められるんだろうか。

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