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黄金の約束  作者: ハイエント
序章

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第5話 屋敷の門

 

 スーパーで買い物を済ませた俺たちは、丘の上にある屋敷を目指して歩いていた。


「まだ着かねえの?」


 飲み物の入った箱を持ちながら、高志がぼやく。


「もうすぐだって」


「さっきからそれ言ってない?」


「丘の上なんだから仕方ないだろ」


 俺も、高志から受け取ったビールの箱を抱えている。


 さっきまで二箱持っていた高志よりはましだけど、坂道を登りながら運ぶとなると普通に重い。


「お前、一箱持ってもらったんだから文句言うなよ」


「だから感謝してるだろ」


「どこが」


「心の中で」


「口に出せ」


「ありがとうございます、弘様」


「気持ち悪いからやっぱいい」


 高志が笑った。


 そんなことを言いながら歩いているうちに、屋敷がどんどん近づいてきた。


「……でか」


 奈緒が足を止めた。


 丘の上に建つ屋敷は、駅から見たときよりずっと大きく見えた。


 白を基調とした外壁に、黒い屋根。


 正面には大きな窓がいくつも並び、建物は左右へ広く伸びている。


 周囲を高い塀が囲み、その向こうには綺麗に手入れされた庭木が見えた。


「これ、本当に個人の家?」


 千夏が呆れたように言う。


「たぶんな」


「たぶんって何よ」


「俺だって十年ぶりなんだから」


 そう答えながら、俺自身も屋敷を見上げていた。


 こんなに立派だっただろうか。


 昔来たときは、もう少し古い感じだったような気がする。


 でも十年前のことだ。


 自分の記憶のほうが間違っているのかもしれない。


「門、これか?」


 大野先輩が言った。


「ああ。一応、親父から鍵は預かってます」


 俺はポケットから鍵を取り出した。


 掌に収まるくらいの大きさの、金属製の鍵。


 今どきの家ではあまり見かけない、古い洋館にでもありそうな立派なものだった。


「うわ、何それ」


 高志が覗き込んでくる。


「すげえ鍵だな」


「俺も渡されたとき思った」


「いかにも屋敷の鍵って感じだね」


 奈緒も興味深そうに見ている。


「これで開けるの?」


「たぶん」


 そう答えて門へ近づく。


 けれど。


「……あれ?」


 俺は足を止めた。


「どうした?」


「鍵穴、どこだ?」


 高志も門を見る。


 しばらくして、俺の持っている鍵へ目を戻した。


「いや、それさ」


「何?」


「どう考えてもこの門の鍵じゃねえだろ」


「……確かに」


 目の前にあるのは、大きな金属製の門だ。


 けれど、どこを見てもこの鍵を差し込めそうな場所がない。


「じゃあ、この門どうすんだよ」


「知らないよ」


「お前、本当にここの家の人間か?」


「十年ぶりなんだから仕方ないだろ」


「またそれかよ」


「じゃあ高志が開けろよ」


「俺が知るわけねえだろ」


 高志が門の周囲を見回す。


「インターホンとかないの?」


「探してみるか」


 そのとき。


「あそこじゃないか?」


 神谷先輩が門柱の上を指さした。


「何がです?」


「カメラ」


 見上げる。


 確かに、小さな監視カメラのようなものがこちらを向いていた。


「あ、本当だ」


 千夏も気づいたらしい。


「……って、一台じゃなくない?」


「え?」


 改めて周囲を見る。


 反対側の門柱にも一台。


 さらに塀の上にも、角度を変えていくつか設置されている。


「何台あるんだよ」


 高志が呆れたように笑った。


「これ、管理人が一人いる家って感じじゃねえだろ」


「確かにな」


 大野先輩も周囲を見回す。


「警備室か何かあるんじゃないか?」


「中で全部モニターしてるとか?」


 奈緒が言う。


「ありそうだな」


「防犯すご……」


 千夏が感心したように呟いた。


「勝田が来たの確認して、向こうから開けるんじゃねえの」


 大野先輩が言う。


「もしかして顔認証とか?」


 奈緒が言った。


「顔認証?」


「最近そういうのあるじゃん。登録した人の顔を見たら自動で開くやつ」


「何それ、すげえじゃん」


 高志が感心したように俺を見る。


「設備まで進んでんな、お坊ちゃま」


「俺に言うなよ」


「自分の家なのに?」


「だから俺の家じゃないって」


 みんなが笑う。


 俺も笑いながら、もう一度カメラを見上げた。


 顔認証。


 でも。


 俺が最後にここへ来たのは、十年くらい前だ。


 その頃の俺はまだ子供だった。


 今の俺の顔なんて登録されているんだろうか。


「……」


 いや。


 今日ここへ来ることは、親父も母さんも知っている。


 最近の写真でも登録しておいたのかもしれない。


 そう考えれば、おかしくはない。


 そのときだった。


『確認いたしました。少々お待ちくださいませ』


「え?」


 門柱のあたりから、丁寧な声が聞こえた。


 よく見ると、カメラの近くに小さなスピーカーまで付いている。


「やっぱ中で見てるんじゃん」


 高志が言った。


「顔認証じゃなかったな」


「いや、分からんぞ」


 大野先輩が笑う。


「機械で確認したあと、中の人間が開けてるのかもしれないし」


「どっちにしてもすげえな」


 奈緒が楽しそうに言った。


 しばらくすると。


 低い機械音がした。


「お?」


 高志が門を見る。


 大きな門が、ゆっくりと左右へ開き始めていた。


「おお……」


 神谷先輩が感心した声を出す。


「本当に開いた」


「やっぱ設備すげえな」


 高志が俺を見る。


「十年も来てないのに、進んでんな」


「俺に言うなって」


 俺も開いていく門を見つめた。


「こんなんだったっけ?」


「またそれかよ」


「だって覚えてないんだって」


「十年あれば変えるだろ。改装したんじゃねえの?」


「……まあ、そうか」


 門は完全に開いた。


 その向こうには、屋敷まで続く石畳。


 両側には綺麗に整えられた庭。


 そして、その奥に大きな屋敷が建っている。


「ほら、行こうぜ」


 高志がビールの箱を抱え直した。


「ああ」


 俺も手にしていた鍵をポケットへ戻した。


 結局、この鍵は使わなかった。


 何のための鍵なのか少し気になったけれど、建物の入口で使うものなのだろう。


 高志たちが次々と門をくぐっていく。


 俺は最後にもう一度だけ、門柱や塀の上に並んだカメラを見た。


 それからビールの箱を抱え直し、みんなの後を追った。


 俺たちは揃って、屋敷の敷地へ入っていった。

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